Seasonal Journey 〜Invitation for scent〜

涼をさがして湧き出る水をたどる旅

2015.07.15

水に感じる涼

大暑(たいしょ)、一年で最も暑い季節がやってくる。立秋までの、暦の上では最も暑いとされているこのころ、夏の土用にはうなぎを食べて精をつけ、暑さへの心構えもしておかなければ。涼をもたらすのに、打ち水などもいいかもしれない。夕立のあと、ふいに雨と土の匂いに気づくと、なんだか懐かしい気持ちになる。ひとたび水の音に耳を傾けると、涼やかな気持ちになる。流水文の着物や帯は、目にも涼しい。そこで、夏に求めたくなる水の匂い。涼を求めて、その水の源をたどる旅に……

山麓に湧き出る水

伊吹山は滋賀県東北部に位置する山。その山裾の米原市は水源の里として知られている。海底火山の噴火によってできた伊吹山の地質は石灰岩。山肌を見ると石を採掘したあとが見える。カルシウムやミネラルを多く含んだ中硬水が伊吹山の湧き水の特徴。また、伊吹山は古くから水の神様を祀る山として崇められ、雨乞いや豊作祈願など農耕にまつわる崇拝の対象にもなってきた。

小雨降るなか訪れた「泉神社湧水」。ひんやりとした神社の麓には、こんこんと水が湧き出る。飲料水として県外から汲みにくる人も多く、また周辺の集落の家々の前には水路がひかれ、生活用水としても利用されていた。案内してくださったのは市職員の中川久美子さん。彼女は、命を育む水や自然と、人間がいかに共存して暮らしていけるのか?地域の魅力の一つとして湧水群を守り、伝え広める活動をしている。「伊吹山あっての、この湧き水です。水のことはもちろん、希薄化してしまった地域の水や自然と、私たちの暮らしとのつながりを知ってもらうきっかけとして、湧水群のことを伝えていきたいんです。蛇口をひねればあたり前に出てくる水への感謝、水への興味・関心を持ってもらえたら嬉しいですね」。

水とともに暮らす

山から勢いよく流れてくる水が、下流の木々を霧で覆う。奥泉口(おくいずみぐち)の水源周辺は、ミストシャワーを浴びているように清々しい。すぐ脇の小道の先の丘には、水田が広がっていた。桶水(おけすい)と呼ばれる泉から湧き出る水を利用して棚田を作り、育ちはじめた稲が風に揺れる。この地で農業を始めて6年、嶋野さんご夫婦が棚田を案内してくれた。「伊吹山からの湧き水に惚れ込んで、大阪からこの地に移り住んできました。荒れ果てた田畑を耕しながら農業を学び、桶水からの水を引いています。棚田が育ってくると、植物も動物も以前のように復活して、今ではヒメボタルも見られるんですよ」。

桶水からの湧き水は量が多く流れも早いので、水温があたたまりにくいという。11℃ほどの冷たい中硬水で、稲はゆっくりと成長する。「お米の味の違いは水の味の差。同じ品種でも少し離れた集落では味が違ってくるんですよ。あとは、その土地にあった品種が一番良く育つ。少しずついろんな品種を試しながら育てているところです。苦労とは思っていないですね、楽しみながら暮らしています」。

土と水、緑や風の匂いは、暑さのわずらわしさを忘れさせてくれる。水とともに生き、水のありがたさを日々、感じながら暮らしているおふたりの心は、とても充たされているように見えた。

水に育まれる

水は、生きていく上でなくてはならない。そうでありながら、あまりに身近で、その存在の大きさを見失いがちだ。水が自然を育み、私たちはその中で生かされている。涼を求めて出た旅で感じた、目や耳で得られる涼やかな幸せ。水を大切にしている人々との出会い。時として脅威にもなりうる水と、ともに暮らす・生きる原点をまのあたりにして、気持ちも涼やかだ。

夏本番のこれから、この旅で見た冷たい湧き水をふいに思い出しながら、涼を感じて暑い季節を過ごしてゆく。

SPECIAL THANKS

▶︎米原市 公式ウェブサイト

 ▶︎未来に伝えたい『まいばらの水

伊吹山スロービレッジ

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