Seasonal Journey 〜Invitation for scent〜

ものづくりから知る、コーヒーのおいしさサイフォン考案の老舗をたずねて

2016.09.10

夏から秋へ

風がひんやりと冷気を含みはじめ、いよいよ季節は夏から秋へと動く。少し肌寒くなった夕方に、カップに注がれたコーヒーで手を温め心を温める。秋から冬にかけては、ホットコーヒーでひと息つく時間がなんとも贅沢だ。コーヒーの香りをたどった旅なんておもしろいかもしれない。そう思い、ふと考える。都市部にはコーヒースタンドが乱立し、焙煎や豆にこだわったショップは数多い。本当においしいコーヒーとは何か。正直なところわかる人は少ないかもしれない。かく言う筆者もその一人であり、コーヒーの香りを探す旅とはいえ、果たしてどこへ足を向ければ良いのか。考えた末に、おいしく入れる「道具」に注目したのが旅のはじまりであった。

コーヒーサイフォンのパイオニア

巣鴨駅からとげ抜き地蔵とは反対方向へ。少し路地を入ると見える、青空に高く伸びた煙突。白い蒸気があがり、コーヒーの香ばしい香りが周辺に漂っている。珈琲サイフオン株式会社は、1925年にサイフォン式器具を考案・販売を開始した、コーヒーサイフォンのパイオニアだ。ハンドドリップの名品「KONO(コーノ)式ドリッパー」と聞けば知る人も多いであろう。道に広がる香りに誘われドアを開けると、焙煎された豆が並んだ小さな店舗、その奥には焙煎機でコーヒー豆が煎られていた。

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道具づくりのはじまり

案内してくださったのは、三代目の河野雅信さん。豆が入っていた麻袋で作られたハンチングが似合う。「祖父はもともと医者で、1920年代にシンガポールの日本領事館付きの医師としてシンガポール滞在中にコーヒーを知ったんですね。それから、コーヒーをおいしく入れる器具、今でいう“サイフォン”を作り出し、名づけたんですよ」。

日本では明治時代に、カフェができたことからコーヒーを飲む文化が広まったという。今でこそ身近な存在となったコーヒーだが、当時コーヒーは嗜好品、ステータスのひとつだった。



「銀ブラっていう言葉、銀座をぶらぶら歩いて散策するっていう意味じゃないんですよね。銀座のカフェでブラジリアンコーヒーを飲むこと。コーヒーは文化人のたしなみ、ステータスだったんですよ」。日本での緑茶の感覚が、欧米でいうコーヒー、そのくらい欧米では一般的な飲み物だったそうだが、当時の日本では意味合いが少し違ったようだ。上級の楽しみであったコーヒー。その点から考えると、海外のコーヒーブランドの味を楽しむのもいいが、日本独自の焙煎と道具で入れられたコーヒーを飲むことも楽しみ方のひとつかもしれない。

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使いやすく、おいしくコーヒーをいれられるように

ものづくりが好きという河野さん。サイフォンをはじめ、ドリッパーも全て日本で作られているという自社製品について、こんなことを語ってくださった。「自分で作ったものは子供たちのようなもの。手作りだから作れる量は限られてしまうけど、いつも進化している。売り手にもゾンザイに扱ってほしくないな。格好だけじゃなくて、使う人が使いやすく、おいしくコーヒーをいれられるように、そういう気持ちじゃないと良いものって作れないんですよね」。

豆は常に生き物

製品づくりの他に、先代がはじめたという豆の焙煎。炭火で熱気のある現場では、煎り加減を確認している職人の姿。「もうすぐできあがります」。そういうと、きらきらと輝く焙煎したての豆がロースターから飛び出してきた。「コーヒー店はやりながら巧くなっていくと思っている人もいるようだけれど、一番最初においしくないコーヒーを出してしまったらおわり。豆は常に生き物だからね。品種、産地、ロースト、湿度、それぞれによって味も香りも変わります。その豆がどれだけ高価なものかという講釈が大切なんじゃなくて、エンドユーザーが求めるものをつくることが大切」。

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豆を育てるのは現地の農園主を信頼している。そして、その栽培された豆を一番いい状態に焙煎すること、その豆でおいしくコーヒーを入れられる製品づくりをすること、それが担っている仕事だと河野さんははっきりと仰る。

ポリシーを込めたものづくり

「この仕事での夢はね、“世界のKONO”と呼ばれること。オンリーワン企業になるということかな。商品が真似されるということは、良い商品である証。でも私たちのものづくりには、エンドユーザーがより長く使え、おいしいコーヒーをいれられる商品であること、そしてそれを常に進化させる、というポリシーが込められているんです」。常に進化を重ねていく、オンリーワンでありつづける、そんな思いと自信を感じる言葉だ。 コーヒーの香りを探して出会ったのはものづくりの達人だった。ポリシーを持って作られた「道具」で入れるコーヒー。今年の秋は、そんなコーヒーにおいしさと香りを探してみようと思う。

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SPECIAL THANKS

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