lisn to MUSIC

音楽と香り。それは日常にさまざまな形であふれているが、どちらも敏感に感じなければ深くふれあうことはできない。
しかし、ひとたび感じることができれば、心に潤いと活力をあたえてくれるもの。
音楽も香りもその感じ方は「聞く」と表現される。
感覚を研ぎすませて香りを感じること、心を大きく開いて音楽に耳をすますこと。
“Lisn to MUSIC”は、暮らしの中で「聞く」ことを大切にしているリスナーに向けたwebコラム。
リスンとアーティストが出会い、そこから生まれるストーリー。
第三回のゲストは、sugar meさんです。

紡がれる色と音、そして言葉

2015.04.22

sugar me

まばゆい陽射しのなか、軽快にやってきた彼女の姿が印象的だった。彼女の眼差しからは芯の通った強いシンガーとしての意思が感じられる。言葉を音にのせて表現するsugar me の心に耳をかたむけた。

sugar meは北海道出身のシンガーソングライター。1stアルバム「Why White Y?」では透き通るような声が心地いい。ギターでの弾き語りがsugar meのスタイル。音楽のテーマカラーは「白」。歌声も、純白の色が目に浮かぶように可憐だ。「白は何色にでも染まってしまいそうな色なんですよね。キャンバスも白ですし。でも、光の色でもあったりして、色の中で実は一番の強さを持っているところが素敵だなと思って」。そう話す彼女は白がとてもよく似合う。sugar meという名前は、そんな白をイメージして名づけたという。「初雪の匂いが好き。初雪が降った朝は空気が変わっていることを感じる。雪そのものに香りはないのかもしれないけれど、あ、またこの季節が来たんだなって」。自然豊かな北海道で、季節の移ろいを暮らしの中で当たり前に感じてきたという彼女から聞く、初雪の匂い。彼女の感覚に、出会ってすぐに惚れ込んでしまった。

まっすぐに表現する者

東京に出て必ず音楽でやっていこう。それでもうまく音楽を生み出すことや表現することができず、逃げ出そうと思ったこともあった。全てをいちどリセットして音楽に向かいたい。そう思ったときに今のレーベルと出会い、自身の思いを組み立てながらアルバムを作った。「自分の性格は、生意気かもしれません。やりたいことや思いは伝えたい。でもそれができるのは、正直な自分の思いを言い合える間柄の人たちと出会えたからかもしれませんね。もしかすると、生意気なんじゃなくて甘えさせてもらってるのかな」。

自分の思いに一本筋が通った強い意志を感じた。シンガーとしてひとり舞台に立ち、進む。sugar meはその人なのだ。歌声から感じられる思いに聞き入る。表現者としてのまっすぐな思い。

サウンドにメッセージをこめて

歌の多くは、英語とフランス語。「日本語で歌うとどうしても左脳で聞いてしまうというか、歌詞の意味ばかりを考えてしまいがち。人生って大変だよね、って日本語で歌うより、英語やフランス語の音だとそこまで重くならない表現ができる。あとは、聴く人たちををフラットにできることがありますね。表現方法はいろいろあるけど、歌詞の意味だけじゃなく、サウンドでグッとさせられたらよしっ!って。音楽自体がメッセージになればいいなと思ってます」。意味やメッセージを強く意識して曲を作るのではないという。それでも聞く人からは「草原で聞いているみたい」と言ってもらったこともあるそう。彼女の中に蓄積された、内なる感覚が知らず知らずのうちに音や言葉に現れ、世界観を共有しているのだ。聞き手である私たちに、確かに届いてくる。



「五感の中でも聴覚と嗅覚って近い感じがしますよね。目には見えないし、無意識の中で感じるものだから、みんな平等には感じているんだけど気付きにくい。だから、ほんの少し注意深く感じることができたらもっと豊かになれる。大切にしていきたい部分ですね」。音楽を作ったり、絵を描いたり文章を書いたり、「表現」することが彼女のライフワーク。音楽を聞いて色や匂いを感じたり、香りから音楽を想像できたり。その相互の感覚は研ぎすませていたい、そう語ってくれた。



今年、2ndアルバムをリリース予定という彼女に、これからへの思いを聞いた。「1stアルバムはアコースティックで弾き語るシンプルなスタイルでしたが、その骨組みは大切にしながら、次は少しカラフルに色をつけたいですね。バンドスタイルでの音楽を安定させて、また弾き語りのスタイルに戻った時に生かすことができたらなと思っています」。自分の知りえなかったジャンルの音楽を聴いたり、アコースティックとは違うバンドスタイルで音楽を奏でることで、層が厚くなっていることを感じている。一人でソングライティングするスタイルとの違いは大変だけど、音楽のストックができることはこれからの活動にも生かせる大事なことと語ってくれた。

「聞く」ことを大切に

表現する人、sugar meは「聞く」ということも大切にする。「自分は表現して聞いてもらう立場にいるけれど、音楽でも会話でも伝えるということは、まずは伝えたい相手のことを聞き入れる、ということだと思います。伝えたい一方で独りよがりにならないように、落ち着いて周りを見渡す、耳を傾ける、相手のことを知ったりインプットすることを忘れないように。聴覚や嗅覚は見えないから意識しづらい部分だけど、だからこそ大切にしたいと思っています」。

見えないものに心と耳を傾ける。ほんの少しの意識で、思わぬ世界の広がりがある。sugar meという一人のシンガーソングライターが紡ぎだした色や言葉、思い。音に心にとめるように、香りのしらべに気をとめることは、日々や暮らしをちょっとだけ豊かにする、忘れたくないこと。気づけば私たちの心もまっ白になれたような気がした。

Artist Profile アーティストプロフィール

sugar me

sugar me

寺岡歩美のソロ・プロジェクト。デビュー前からnumber0、milk、ドイツの人気デュオ It’s a Musicalらの作品に参加。2013年、ミシェル・ゴンドリー監督の映画『ムードインディゴ~うたかたの日々~』の公開を記念し、映画をイメージしたEPを限定リリース。同年12月ラリーレーベルよりリリースしたファースト・アルバム『Why White Y?』には、小山田圭吾(コーネリアス)、イトケン(トクマルシューゴ・相対性理論・D.V.D)梅林太郎(milk)、千住宗臣(原田知世・キセルなど)ら豪華ミュージシャンが参加し、話題となった。2014年1月にはAu Revoir Simoneのジャパンツアーに同行。現在も堀江博久とのアコースティック・ツアーや、Curly Giraffeとの2マンライブを行うなど積極的に活動中。CMの歌唱や、ライフスタイル・マガジン「KINFOLK」でモデルを務めるなど、現在その活動の幅を広げている。

▶sugar me official website

Discography
『1.2.3 (inspired by mood indigo)』(Rallye Label)2013年8月
『Why White Y?』(Rallye Label)2013年12月
『Shall We Meet In Our Dreams?』(Rallye Label)2014年4月
『Why White Y? 12inch LP』(Rallye Label)2014年5月
『高野寛と素晴らしきラリーの仲間たち / We are He』(Rallye Label)2014年9月

【出演情報】
2015年5月30日公開の岨手由貴子監督作品『グッド・ストライプス』にsugar meバンドとして出演。
演奏シーンもご覧いただけます。
主演菊池亜希子、中島歩。でこぼこカップルの結婚をテーマにした心温まる作品です。
『グッド・ストライプス』公式サイト

Why White Y?

Why White Y? [2013.12.18]