lisn to MUSIC

音楽と香り。それは日常にさまざまな形であふれているが、どちらも敏感に感じなければ深くふれあうことはできない。
しかし、ひとたび感じることができれば、心に潤いと活力をあたえてくれるもの。
音楽も香りもその感じ方は「聞く」と表現される。
感覚を研ぎすませて香りを感じること、心を大きく開いて音楽に耳をすますこと。
“Lisn to MUSIC”は、暮らしの中で「聞く」ことを大切にしているリスナーに向けたwebコラム。
リスンとアーティストが出会い、そこから生まれるストーリー。
第九回のゲストは、オペラ歌手 晴雅彦さんです。

非日常へいざなう舞台音楽

2017.05.08

オペラ歌手 晴 雅彦

「作曲家が残したものって、楽譜だけしかないんです。作曲家の思いとか意図は全て音符で表現されていて……だから、自分が楽譜から読み取ってイメージしたことを表現していこうと思って。この楽譜に私は一番忠実でありたいと思っています」。時おり冗談を交えながら、和やかにお話ししてくださるのは、オペラ歌手 晴雅彦さん。その場がぱっと明るくなるような穏やかな表情や明るい声色から、彼の人柄がうかがえる。話題によってひらりひらりと変わるその表情は、舞台上での彼をそのまま映しだしているよう。オペラはその場にいる人たちを、どこか日常から切り離された異空間へ連れだしてくれる。その、どこか解き放たれたような感覚が、なんとも不思議で心地よい。

ドイツで銀行冊子の表紙になった晴さんの舞台

haresama_poster10.jpg


23歳で国内オペラデビューし、28歳のとき、ドイツでデビューした晴さん。バリトン歌手として本場でオペラの道を駆け上がる。ドイツでの活動の中、様々に考えることもあり、活動の拠点を日本にフォーカスした。それからは様々な業界から彼の魅力を求める声があがり、舞台のみならずメディアへの出演や伝統芸能とのコラボレーションなど、常に新しいオファーの数々が首を長くして彼のことを待っている。









音楽に導かれる

音楽との出会いは記憶にないほど幼い頃。1歳半になる頃には言葉を話しだすよりも前に歌をうたっていた。そんな晴さんだが、周囲に特別、音楽とまじわる環境があったわけではない。「多分、テレビの歌謡曲だとおもうんですよ。テレビから流れてくる歌謡曲をまねてね、それで歌うことが好きになって、毎日、父に『ジュークボックスを聴きにいかせて〜』と。自分で50円入れて聴いてたとかいってました。こどものころからとにかくずっと歌ってて」。テレビから自然と流れてくる音楽を聞いているうちに、知らぬ間に音楽に惹かれ、やがては歌うことが楽しくなっていった。

代わりのいない存在

haresama_honnin2.jpg

シリアスな役からコミカルな役まで、幅広い役がらを見事に演じわける晴さん。バリトン歌手でありながら、彼個人の魅力を求め、テノールの役やバスの役のオファーも絶えない。そんな彼だが、自分の個性やキャラクターを意識したことは一度もないのだという。ただただ、いい音楽をつくりたい、そのためにうまくなりたい、その一心でたゆまぬ努力をし続けてきた。そうしているうちに「あなたにこの役をやらせたい」と、彼自身の魅力を求める声が増えていった。「だから結果的に自分の個性は、まわりが作ってくれた。まわりの方たちが見つけ出してくれたんですね」。「オペラ」と聞くと、つい背筋ののびるような舞台ばかりを想像してしまいがち。しかし、ひとたび彼が舞台へ登場すると、そのコミカルな演技に、会場からおもわず大笑いがおこることだってある。彼の不思議な力が、私たちがオペラに対して勝手にもっていた固いイメージを、あっという間に取りさってゆく。

音楽で伝える

「例えば画家が絵を描くとき、すがすがしい風景を見たら、『このすがすがしさ、心の中にうまれた感動を誰かにわけてあげたい』っていう思いで絵を描くと思うんです。だから、共感できる心をあげたいというか。だいたいの歌には言葉がついているけれど、言葉をなぞるだけじゃなくて、自分の伝えたい気持ち、『心』をプレゼントしたいなあって」。自分の表現でなにかを伝えることは、誰かへの心のプレゼント。音楽や舞台での表現は、人の心をうごかし、そして人の人生を変えることができる程の力を持っているもの。そういうものが表現できるようになれば嬉しいと語る彼の言葉には、ひとつひとつにどこか聞き入ってしまうパワーがある。

瞬間の芸術

haresama_sphere.jpg

日本のオペラ界をけん引している晴さんにとって、緊張感とプレッシャーで常にピンと張りつめている気持ちを、和やかに癒してくれるものが「香り」だという。「においで落ち着くことって、人間には必要なことだと思います。金木犀の香りがするなあって心を寄せていると、心が穏やかになったり」。生まれては消えるもの、それでいて心にはしっかりととどまるもの。それは朽ちることなく、何かのきっかけさえあれば心の中に鮮明によみがえるもの。「音楽」と「香り」をそんなふうに表現された晴さん。同じ音楽や香りでもそのときの環境や気分、バックグラウンドで様々にうまれ変わり、瞬く間もなくわたしたちの記憶の中に刻まれていく。それらはまさに、かたちの無い「瞬間の芸術」。








聞く。何かが変化する。

音楽を感じること、香りを感じること、いずれも「聞く」と表現される。晴さんにとって、「聞く」ことは一体どんなことなのだろう。「聞く」「聴く」「効く」。いろんな引き出しを開けながら答えてくださった。「『きく』……そうだね、例えばそれによって何かが触発されるとか変化するとか。音楽でも『聴き流す』っていう言葉があるじゃないですか。『聴き流す』っていうのは結局『聴いてない』んですよね。だから、『きく』ってことは、ちゃんと味わって……」。「香りだって、ただ単に鼻から入って鼻から出た、じゃないよね。生物学的には多分脳を通るんでしょうけど、私たちはそれを心で味わうというか、心で感じるというか……。だから、『きく』ことって、自分の中で何かが変化することなんじゃないかなあと思います」。

聞く。何かが変化する。

すっと腑におちる表現に引きこまれ、思わずだまって聞きこんでしまう。私たちの香りも、聞く人の心になにか変化をあたえられるものでありたいと思う。

大好きな音楽を、まだまだ続けていくことができれば幸せと語ってくれた晴さん。彼の魅力と音がかさなり、瞬間そこに生まれる音楽は、人の心を動かす、まさに人生を変えるようなもの。そんな音楽を、これからも多くの人たちの心につたえてほしい。



haresama_saigo.jpg

Artist Profile アーティストプロフィール

晴 雅彦

晴 雅彦




晴 雅彦
(はれ まさひこ)
バリトン
大阪音楽大学音楽学部声楽学科声楽専攻卒業。
文化庁派遣芸術家在外研修員としてドイツ・ベルリンに留学。
ドイツ・ケムニッツ市立劇場「魔笛」パパゲーノでヨーロッパ・デビュー後、同劇場「ヘンゼルとグレーテル」魔女、「ウィンザーの陽気な女房たち」Dr.カイウス、ドイツ・ザクセン州立劇場「蝶々夫人」ゴロー、ドイツ・ラインスベルク音楽祭「ヴァルダー」ドルモンス・ゾーン及びガラ・コンサート、スウェーデン・ヴァドステーナ音楽祭「ヴァルダー」ドルモンス・ゾーン等で出演。
国内では、新国立劇場「運命の力」フラ・メリトーネ、「トスカ」堂守、「ルル」猛獣遣い、「ばらの騎士」公証人、「フィガロの結婚」アントニオ、「ラ・ボエーム」アルチンドロ、「ニュルンベルクのマイスタージンガー」ハンス・シュヴァルツ、「魔笛」モノスタトス、「夜叉ヶ池」弥太兵衛、蟹五郎をはじめ、東京芸術劇場「イリス」キョート、「蝶々夫人」ゴロー、「カルメン」ダンカイロ、「メリー・ウィドウ」サンブリオッシュ、神奈川県民ホール「トゥーランドット」ピン、「ラ・ボエーム」アルチンドロ、横浜みなとみらいホール「蝶々夫人」ゴロー、「竹取物語」大伴御行、日生劇場「ジャンニ・スキッキ」スピネロッチョ、兵庫県立芸術文化センター「魔笛」パパゲーノ、「蝶々夫人」ゴロー、「ヘンゼルとグレーテル」ペーター、「メリー・ウィドウ」サンブリオッシュ、「こうもり」ブリント、「夕鶴」運ず、「セヴィリアの理髪師」フィオレッロ、アンブロージォ、「人魚姫」王子、魔女他、「藤戸」佐々木盛綱、びわ湖ホール「トゥーランドット」ピン、「フィガロの結婚」伯爵、「死の都」フリッツ、「ラ・ボエーム」アルチンドロ、「リゴレット」マルッロ、「ジプシー男爵」シュパン、「竹取物語」大伴御行、愛知県芸術劇場「蝶々夫人」ゴロー、「ホフマン物語」スパランツァーニ、まつもと市民芸術館「こうもり」フロッシュ、神戸文化ホール「フィガロの結婚」伯爵、「蝶々夫人」ゴロー、「夕鶴」運ず、「魔弾の射手」キリアン、ミューザ川崎シンフォニーホール「かぐや姫」公家、石川県立音楽堂「カルメン」ダンカイロ、富山市立オーバード・ホール「ラ・ボエーム」ベノア、アルチンドロ、「フィガロの結婚」アントニオ、いずみホール「魔笛」パパゲーノ、「カーリュウ・リヴァー」船頭、「フィガロの結婚」アントニオ、「アマールと夜の訪問者」メルヒオール王、京都ローム劇場「フィガロの結婚」アントニオ、京都コンサートホール「イリス」キョート、フェスティバルホール「蝶々夫人」ゴロー、大阪国際フェスティバル「ラ・ボエーム」アルチンドロ、金沢歌劇座「蝶々夫人」ゴロー、「メリー・ウィドウ」サンブリオッシュ、福井県立音楽堂「カルメン」ダンカイロ、ザ・カレッジ・オペラハウス「ファルスタッフ」フォード、「魔笛」パパゲーノ、「アルバート・ヘリング」シッド、「コジ・ファン・トゥッテ」グリエルモ、「トスカ」堂守、「イル・カンピエッロ」アストルフィ、「蝶々夫人」ゴロー、「ジャンニ・スキッキ」スビネロッチョ、アマンティオ、「トゥーランドット」パンタローネ、「領事」アッサン、「ドン・ジョヴァンニ」マゼット、関西二期会「魔笛」パパゲーノ、「ドン・カルロ」ロドリーゴ、「アルバート・ヘリング」シッド、「蝶々夫人」ゴロー、「ナクソス島のアリアドネ」ハルレキン、堺シティオペラ「ドン・カルロ」ロドリーゴ、「ジャンニ・スキッキ」ジャンニ・スキッキ、「魔笛」パパゲーノ、「蝶々夫人」ゴロー、「こうもり」アイゼンシュタイン、「ヘンゼルとグレーテル」魔女、「ラ・ボエーム」ショナール、名古屋二期会「フィガロの結婚」伯爵、中国二期会「こうもり」ファルケ、新川文化ホール「カルメン」ダンカイロ、西日本オペラ協会「愛の妙薬」ベルコーレ、「ラ・ボエーム」マルチェルロ、札幌オペラスタジオ「愛の妙薬」ベルコーレ、群馬音楽センター「蝶々夫人」ゴロー、名取市文化会館「カルメン」ダンカイロ、東京・ミラマーレ「ジャンニ・スキッキ」スピネロッチョ、アマンティオ、広島シティオペラ「ドン・ジョヴァンニ」ドン・ジョヴァンニ、沖縄・オオ・ぺぺ・ララ「フィガロの結婚」伯爵、大阪・ラブリーホール「フィガロの結婚」伯爵、「魔笛」パパゲーノ、「ドン・ジョヴァンニ」ドン・ジョヴァンニ、「電話」ベン、「スザンナの秘密」ジル、和歌山市民オペラ協会「ヘンゼルとグレーテル」魔女、「魔笛」パパゲーノ、「夕鶴」運ず等、北海道から沖縄まで全国各地で活躍。
チョン・ミョンフン、ペーター・シュナイダー、ダン・エッティンガー、アントン・レック、ウルフ・シルマー、パスカル・ヴェロ、ミヒァエル・バルケ等、著名な指揮者とも共演。
ロシア・レニングラード国立歌劇場管弦楽団をはじめ、東京フィル、読売日響、東京都響、日本センチュリー、大阪フィル、大阪響、兵庫PAC、京都市響、京都フィル、関西フィル、オペラハウス管弦楽団、テレマン室内管弦楽団、アンサンブル金沢、セントラル愛知等と共演により、ベートーヴェン「第九」、モーツァルト「レクイエム」、フォーレ「レクイエム」、ブラームス「ドイツ・レクイエム」、マーラー「さすらう若人の歌」、コープランド「古いアメリカの歌Ⅰ」、平野公崇「七つの絵」、バッハ「コーヒー・カンタータ」「農民カンタータ」等のソロを演唱するなどコンサートでも活躍。
「ラ・フォル・ジュルネびわ湖」「ラ・フォル・ジュルネ金沢」等音楽祭にも多数出演。
NHK「にんげんマップ」「プレミアム・シアター」「名曲リサイタル」「あほやねん!すきやねん!」「関西ラジオワイド」「かんさい土曜ほっとタイム」、JOEX「題名のない音楽会」、YTV「秘密のケンミンSHOW」「いただき!ナハ~レ!」「大阪ほんわかテレビ」「キューン」、TBS「はなまるマーケット」「ニュース1130」、MBS「痛快!明石家電視台」「ヤング・タウン」「ロンブー淳の居座り」、ABC「探偵ナイトスクープ」「おはよう朝日です」「キャスト」、KTV「ピーチケパーチケ」等に出演。
第3回和歌山音楽コンクール声楽部門一般の部第1位、大阪府芸術劇場奨励新人、大阪市・咲くやこの花賞、大阪文化祭賞奨励賞、兵庫県芸術奨励賞を受賞。
全日本学生音楽コンクール、東京国際声楽コンクール、大阪国際音楽コンクール各審査員。
すばるホール・アドバイザー。
日本演奏連盟会員。
大阪音楽大学教授。


【これからの公演情報】

■2017年5月21日(日) “トヨタコミュニティコンサートin群馬 ”「トスカ」堂守役
@前橋市民文化会館
http://www.toyota.co.jp/jpn/sustainability/social_contribution/society_and_culture/domestic/tcc/2017/gunma/

■2017年7月14日(金)より “佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ2017 ”「フィガロの結婚」アントニオ役
@兵庫県立芸術文化センター
http://www.gcenter-hyogo.jp/figaro/

■2017年8月20日(日) 「魔笛」パパゲーノ役
@和歌山市民会館

■2017年9月10日(日) 「晴 雅彦バリトン・リサイタル」
@あすとホール

■2017年11月30日(木)より 新国立劇場「ばらの騎士」公証人役
@新国立劇場
http://www.nntt.jac.go.jp/opera/performance/9_009637.html

■2018年1月16日(火) “大阪音楽大学・オペラ物知り講座2017”「元祖 鬼才 オペラを身近にしてくれた関西の名バリトン」
@大阪音楽大学ミレニアムホール
http://www.ongakuin.jp/course/special/operamonosiri2017

■2018年2月4日(日) “滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール・気軽にクラシック 16 ”「晴 雅彦 バリトン・リサイタル」
@滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール
https://www.biwako-hall.or.jp/performance/2016/12/27/post-536.html

■2018年2月28日(水)より 新国立劇場「ホフマン物語」スパランツァーニ役
@新国立劇場
http://www.nntt.jac.go.jp/opera/performance/9_009640.html




【つぎの公演情報】

“トヨタコミュニティコンサートin群馬 ”「トスカ」堂守役
@前橋市民文化会館

詳細はこちら

[2017年5月21日(日)]