lisn to MUSIC

音楽と香り。それは日常にさまざまな形であふれているが、どちらも敏感に感じなければ深くふれあうことはできない。
しかし、ひとたび感じることができれば、心に潤いと活力をあたえてくれるもの。
音楽も香りもその感じ方は「聞く」と表現される。
感覚を研ぎすませて香りを感じること、心を大きく開いて音楽に耳をすますこと。
“Lisn to MUSIC”は、暮らしの中で「聞く」ことを大切にしているリスナーに向けたwebコラム。
リスンとアーティストが出会い、そこから生まれるストーリー。
初回のゲストは、tico moonのおふたりです。

静かに輝く月のような、やさしい音楽の奏で

2014.10.15

Lisn to MUSIC

tico moonは、ゆるやかに、移ろう季節とともに音楽を奏でるハープとアコースティックギターのデュオ。やさしさの中に、芯のとおった強さと存在感を感じさせるふたりのハーモニーに魅了され、彼らの音楽やことばから、香りと共鳴するものを探してみたくなった。リスンの香りを感じてもらいながら、おふたりの言葉に耳をかたむける。
背丈ほどもある赤いバッグから現れたのは、美しい曲線のアイリッシュハープ。この大きさでも、持ち運びがしやすい小さいタイプなのだとか。近くで見ると、赤や青の色がついた弦が並ぶ。「ドレミがわかるように色がついているんですよ。色がついていないと、どれがどの音かわからなくなってしまうんです」。そう話すのは、ハープ奏者の吉野友加さん。小学校の頃に習っていたピアノの先生に勧められたのがきっかけで、ハープを始めた。一方、アコースティックギターを奏でるのは影山敏彦さん。「彼女が演奏していたハープの音を聞いて、ギターとの相性がいいんじゃないかなと思い、二人で演奏を始めました」。ファーストアルバムリリースから10年。2013年に『はじまりの鐘』を発表し、日本各地でライブ活動を行っている。

記憶が呼び覚まされる音楽と香り

演奏がはじまった途端、彼らの音楽に引き込まれ、他の音は全く耳に入ってこなくなってしまった。やさしいようでいて、からだの芯まで響いてくる深い音。ふたつの楽器のハーモニーが一瞬にして空間を包み込んだ。影山さんは「ハープの旋律に対して、ギターは前へ出て目立つのではなく、ハーモニーで支えたり、時にメロディとして表へ出たり、ふたりの音楽を支えるものだと思うんです」と、話す。寄りそうように支えあうように、互いを尊重するような旋律は、やさしい記憶を心に確かに刻む。
レコーディングや演奏前、集中したい時に香りを取り入れているという友加さん。暮らしの中にある季節の匂いも大切にしているという。湿気や空気で、楽器の音も変わる。ふたりも同じく、移ろう季節に身をゆだね、時の流れを音にして奏でる。「秋や春、ゆるやかに移り変わっていく季節が好きですね」と影山さんが話せば、友加さんは「冬が好きです。空気がからっとしていてハープの音が軽やかになります。それに雨の匂いも好きで、そういうものをイメージした曲も多いんですよ」と声を重ねる。
「香りと音楽って、似ていますよね。忘れているんだけれど、ふと、その曲や香りにふれると、いつか感じたその時間に戻れるような……目にはみえないけれど記憶が呼び覚まされるような、ね」。

自分たちの芯にある力強さを大切に

二人が一緒に演奏をするようになったのは2001年。結成当初はギターとハープのデュオとして活動していましたが、のちに「tico moon」という名で活動を始めた。映画鑑賞が趣味だという影山さんが、フランス映画の邦題「ティコムーン」の響きからヒントを得て名づけた。「ticoはあくまで当て字なんですが、“小さな“という意味もそう遠くはないイメージ。わたしたちは煌煌と明るい太陽より静かに照らされて輝く月の方が好きですし、イメージもあっているかな、と」。そんな名前や楽器のイメージから、やさしい印象のあるtico moon。もちろんそれは違ってはいないのだけれど「自分たちの芯にある力強さを大切にしていきたい」とおふたりは話す。

五感に届くメロディ

「曲には、自分に蓄積されたものが自然と表れていると思っています。ぼくは映画をよく見るのですが、実は内容は覚えていなかったりもするんです。でも、その時に感じた感情は蓄積されている。私たちのメロディやハーモニーにもそれが重なって聞こえる。さらにその向こう側で、聞く人それぞれの感じ方で受け取ってもらえたらいいなと思います」。音楽も香りも、目で見てカタチを捉えることができない。ー見えないものに耳を傾け、感じるー“聞く”という点でも共通する両者には、届けたい人々の感性に響く表現が求められる。
一方の友加さんは「生活のひとときや時の流れなど、ストーリーを音楽にし、映像をメロディで表現する。曲をつくる時、そんなふうに映像や物語を思い浮かべることもあります」。指の動きひとつまで神経を研ぎすませてハープを奏でる姿は、“視覚”的にも魅せ聞かせる。友加さんは、それも音の一部だと話す。 ふたりの作業はまるで、感情と情景を織りまぜて、ふたりでひとつの紙芝居を描くようなものかもしれない。わたしたちも、香りから広がるストーリーを大切にしている。様々な情景を香りから見つけだし、感じてほしいと願っているのだ。

「聞く」ことは知ること

影山さんは、人のことばを聞くことへも意識を高める。「人の話を“聞く”ということは、少し大げさかもしれませんがその人の人生を知るということだと思います。私たちの曲づくりもそうですが、だれかの言うことを聞いてみると、結果として想像していたよりも素晴らしいものができあがることもあるんですよね」。日本全国に出向くツアーも、大切な楽器とともに、いつも車で旅をする。ゆく先で人と過ごす時間、話したり聞く時間は、ふたりがとても大事にしているものの一つ。感受性の豊かな彼らの耳に届くことばや音から、新たな音楽が生まれる。 音楽は生活の一部、という影山さんは「曲が生まれるとき」が何よりも楽しい時だと夢中になって話す。「こんな曲はどうだろう、とはじめてふたりで奏でるその時が、一番楽しい。いつか生まれたての曲だけでアルバムを作るという夢もある。演奏を重ねるうちに変化し、メロディができあがっていく。そんな風に曲が育っていくのも幸せですね」。
「聞く」、それは心を研ぎすまして感じること。人、音楽、香り、全てのものに共通する大切な感覚なのだ。そこからはじまる新しい物語。物語を受け取った多くの人たちがまた、新しい物語を紡ぎだす。香りも音楽も人から人へと伝わり、かたち作られていくものなのかもしれない。

tico moonのことばと音楽が思い出させてくれた、記憶のなかの情景や匂い。それらを深呼吸することによって、音楽も香りも暮らしの彩りとなり、無限に広がる空想の世界へ誘うものだということを再認識させてくれた。 アーティストとの出会い。音楽から香りへ、香りから音楽へ。往還するループをしだいに大きく、ゆたかに広げ、両者によるライフスタイルへのイマジネーションを、リスナーのみなさまへ、ここから届けていきたい。

Artist Profile アーティストプロフィール

tico moon

tico moon

2001年7月、ハープ奏者/吉野友加と、ギター奏者/影山敏彦によって結成されたデュオユニット。 ハープとアコースティックギターという、他ではあまり聴く事の出来ない温かく透明感のあるその演奏や楽曲には定評があり、全国各地のカフェやギャラリー等でコンスタントに演奏活動を行っている。
2003年10月には333DISCSからファーストアルバム『lento』をリリース。その後、オリジナルアルバム、クリスマスアルバム、ライブアルバム等の作品を発表し続けている。2009年には、映像制作チーム「SOVAT THEATER」によるストップモーションアニメーション『電信柱エレミの恋』(第13回文化庁メディア芸術祭優秀賞、第64回毎日映画コンクール大藤信郎賞受賞)の音楽を全編担当。
また他のミュージシャンからの信頼も厚く、遊佐未森、湯川潮音、空気公団、アン・サリー等、数多くのアルバムやコンサートに参加している。
2013年11月には通算7枚目のアルバム『はじまりの鐘』をリリース。このアルバムではゲストミュージシャンに徳澤青弦(チェロ)、布施尚美(ヴォーカル)、伊藤ゴロー(ギター)を迎えレコーディング。初めて他の演奏家とコラボレーションしたこの作品で、更に表現の幅を広げている。

▶tico moonさんの視聴はこちら!
▶tico moon official site

Discography
『lento』 (333DISCS) 2003年10月
『silent sea』 (333DISCS) 2004年10月
『Christmas album』 (333DISCS) 2005年11月
『Live at くるみの木』 (333DISCS) 2006年3月
『Raspberry』 (333DISCS) 2008年7月
『電信柱エレミの恋オリジナルサウンドトラック』 (333DISCS) 2009年11月(iTtunes配信限定)
『Daydream Garden』 (333DISCS) 2011年5月
『はじまりの鐘』(333DISCS) 2013年11月

【これからのライブ】
■2014年11月8日(土)
tonco & tico moon 宵月ポロロン音楽会
▶お申し込み・詳細はこちら
◇会 場/キチム 東京都武蔵野市吉祥寺本町2-14-7 吉祥ビルB1
◇Open/19:00 ◇Start/19:30
◇Charge/ご予約3,000円、当日3,500円(要1ドリンクオーダー)
◇出 演/tonco、tico moon

はじまりの鐘

はじまりの鐘 [2013]