音楽と香り。それは日常にさまざまな形であふれているが、どちらも敏感に感じなければ深くふれあうことはできない。
しかし、ひとたび感じることができれば、心に潤いと活力をあたえてくれるもの。
音楽も香りもその感じ方は「聞く」と表現される。
感覚を研ぎすませて香りを感じること、心を大きく開いて音楽に耳をすますこと。
“Lisn to MUSIC”は、暮らしの中で「聞く」ことを大切にしているリスナーに向けたwebコラム。
リスンとアーティストが出会い、そこから生まれるストーリー。
第十三回のゲストは、CANTUSの太田 美帆さんです。
2018.11.25
聖歌。それは祈る人たちの心をひとつにし、神様へ思いを届けるための音楽。教会音楽がもつ独特のハーモニーは、厚みがあるのに天高く澄み渡り、まるで透明ななにかが幾重にも重なり合ったような印象を与えてくれる。CANTUS(カントゥス)は女性9人で編成される聖歌隊。初めて聞いた彼女らの歌声は、まるで神様と会話をするように繊細な美しさを備えていた。
今回お話を聞かせてくれたのは、CANTUSのリーダーをつとめる太田美帆さん。はつらつと明るい振る舞いが魅力的だ。小さな頃から歌うことが大好きだった太田さんは、小学二年生のときに入隊した東京少年少女合唱隊で教会音楽と出会う。合唱隊はローマ法王の制定した世界児童合唱連盟の日本支部で、主にカトリック聖歌を奏でていた。教会音楽は彼女にとっての原体験となり、声を重ねることの面白さを教えてくれた。「そのときに一緒に歌っていたメンバーがCANTUSです。住んでいた場所も学校も違ったんですが、歌を通して仲良くなって」。
仕事をしながら、家庭をもちながら、色々なライフスタイルを楽しむ9人でつくり上げるCANTUSが活動の軸にしていることは、聖歌の美しさを世の中に広めること。「こんなに美しいものをこのちいさな世界の中にとどめておくのはもったいないっていう気持ちがあって。例えば絵なら、天使が舞い降りた宗教画を見ると自分が教会の信者じゃなくても美しいなって思いますよね。それと同じようなことをCANTUSはしたいと思っているというか」。そんな彼女らには、歌で空間を作り上げるときに大切にしている思いがあって、それは「ひとつになる」ことだと教えてくれた。「私たち歌い手もひとつになるんだけれども、聞いてくださっている人たちとも気持ちを揃えて、音楽を通してその場自体がひとつになる。ただ一方的にアーティストのアイデンティティを得るというよりも、体験として一度音楽を内側に入れてもらって、それが終わって演奏会の会場を出た後に『ああ、なんかスッキリしたかも』って思ってもらえたら嬉しいというか。スッキリしてもらうためにはお客さんとわたしたちが同じところを見なくちゃいけない気がしていて。それぐらい、一緒になってひとつのものを作ってゆきたいなって」。補い合いながら、声が合わさってひとつになってゆくこと。教会という場所、歌う人の表情、天高く空気を震わせる歌声。そこにあるものすべてを感じとって歩み寄ることで「ひとつになる」という感覚が生まれるのだという。
「アクセサリーをつけない代わりに、香りは毎日欠かさずつけているんです」。初めて連絡をとった時、そんな話を聞かせてくれた太田さん。リスンの香りにも触れてもらう。いっぱいありますね、と楽しみながらお気に入りを探してくださった。#305 DARK MAESTRO、#239 FOLLOW、#278 OPAQUE SILVER。いずれも少しスパイスの効いた、重なりの感じられる香り。太田さんの表現する音楽が声を重ねて調和し完成していくように、リスンのインセンスも様々な香りの要素が合わさってひとつの香りをつくってゆく。「私ずっと匂いフェチだって言ってたんですけど、音楽と似てるからだって思えてきました」。太田さんにとって音楽や香りは、ときに気持ちに寄り添い、ときに気持ちを変えてくれるもの。「私にとって香りと音楽って、きっと同じですね」。
香りの話を聞いていると、太田さんにとって香りや音楽は、過去の記憶につながるものではないのだそう。
「ゼロから作曲する時に、目を瞑ってピアノをパーンと弾くんです。そうしたら自分の知らない和音が流れるじゃないですか。そこから、この音の次はこうしたらすごく気持ちがいいとか、何かを目指してとか何かを思い浮かべてとかじゃなくて、とにかくそこにある音を積み重ねてできていくんですね」。瞬間発想する音から、見たことのない世界ができあがってゆく。「だから作曲することは、ものすごくワクワクするんですよ。最新作が自分にとってベストな状態というか。若さへの憧れというよりも、次の方がもっと良くなるに決まっているっていう感じですね」。
太田さんの話に、ハッと目の覚めたような感覚になる。これまでは音楽も香りも、なぜかしら過去の記憶と結びつくと感じていた。けれども音楽は、まだ見ぬ世界を見せてくれるものでもあるということに気がつく。音楽はいつも、前へ前へと進んでいる。「とにかくこれまでのことよりもその場が大切というか。ここが良くなれば次に繋がるっていうふうに思っているんです」。
音楽は、私たちに新しい世界を与えてくれるもの。新たな感覚を手にして、音楽を「聞いて」みる。ものごとにひとつ、深みが増したような気がしてくる。最後に「聞く」という言葉について教えてもらった。
「音楽は医療であるって言った先生がいて。お医者様って問診しますよね。『先生、今日お腹が痛いんです』『今日、何を食べましたか?』とかそういう話を聞いているうちにお腹が痛いのが治っちゃったとか、お腹が痛いって言って来たけど本当は心臓に疾患があったとか、そんなことが話を『聞く』とわかるんですって」。
「ときどき、声のワークショップっていうのをやるんですが、参加してくださっている方に声を出してもらって、目を瞑って相手の心の声を聞きながら私がそれにハーモニーをつけるんです。他の全ての感覚をシャットアウトして、その人のなかに入っていくっていうイメージなんですけど、心の声を聞くことってすごく治療に近いのかもしれないなあと思ってやっています。声に出してもらうと心が見えるっていうか、ストレートに出せる子にはストレートに返すし、ホワホワしている子には少しだけ支えられるようなコーラスをつけるし、そういうことをするとお互いに気持ちを交換できるというか。なので『聞く』っていう行為と『交換、交わる』だったり『感じる』って私の中で同じかもしれないです」。
声で思いを読み取る。歌声で神様に思いを伝える聖歌を続けてきた太田さんらしい考え方に耳を傾ける。
「きっと、一方的なものではないですね。聞くっていうことって」。
「聞く」ことは伝える人と聞く人がお互いにきちんと向かい合い、心を通わせて、伝わってくるものをそれぞれに感じとること。
そんな感覚を大切にしながら、たくさんのひとたちにCANTUSの音楽を聞いてみてほしい。
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★ インストアフリーライブ開催 ★
2018年の新作インセンスシリーズ「THE CHORD OF SCENTS」より、
音の重なりにちなんだライブを開催いたします。
聖歌隊 CANTUSさんによるライブは
12/15(土)15:00〜リスン京都店内にて開催。
事前予約等なしのフリーライブとなります。
クリスマスムード高まるCANTUSさんの美しいコーラス。
ぜひ、店頭へお越しください。
Lisn NEWS▶︎http://www.lisn.co.jp/news/new_product/337/
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1978年東京生まれ。
小学校2年生の時、東京少年少女合唱隊へ入隊。
グレゴリオ聖歌を始めとするカトリック教会音楽にこころ奪われる。
当時共に在籍していた仲間達と「聖歌隊CANTUS(カントゥス)」を結成。
現在ではCANTUSの他にもコーラスプロジェクト「UTA(ユタ)」、声のWS、合唱指導にも力を注ぐ。
HP▶︎http://otamiho.com/
Instagram▶︎ura.cantus
【太田 美帆さん 公演情報】
HPにてご確認ください▶︎http://otamiho.com/
写真家 山口 明宏
神奈川県生まれ。
東京を中心に活動する写真家。主な被写体は花と人、そこに含まれる景色。
自身が関わる全てを写真機で記録し、それを元に作品を制作している。
HP▶︎http://yamaguchiakihiro.com
*今回の写真は、山口さんに撮影していただきました
miho ota + tatsuro yokoyama 「concone」
ご購入はこちら
[2018/10/21 リリース]