lisn to MUSIC

音楽と香り。それは日常にさまざまな形であふれているが、どちらも敏感に感じなければ深くふれあうことはできない。
しかし、ひとたび感じることができれば、心に潤いと活力をあたえてくれるもの。
音楽も香りもその感じ方は「聞く」と表現される。
感覚を研ぎすませて香りを感じること、心を大きく開いて音楽に耳をすますこと。
“Lisn to MUSIC”は、暮らしの中で「聞く」ことを大切にしているリスナーに向けたwebコラム。
リスンとアーティストが出会い、そこから生まれるストーリー。
第四回のゲストは、篠笛奏者の佐藤和哉さんです。

生まれもった感覚で奏でる音楽

2015.07.23

篠笛奏者 佐藤和哉

和装姿に束ねられた髪。肩から”篠笛“が大切に携えられていた。颯爽と現れた彼の立ち姿は美しい。彼の所作、言葉、音。そこには日本人が生まれ持った情感や感覚が自然とあらわれているようだった。普段、耳にする機会が少ない和楽器の音色。その音と彼の言葉を紐解く。

佐藤和哉さんは、2013年のNHK連続テレビ小説『ごちそうさん』の主題歌、ゆずが歌う「雨のち晴レルヤ」のモチーフ曲「さくら色のワルツ」を作曲。日本全国で活躍する若き篠笛奏者だ。佐賀県唐津に生まれ育ち、唐津くんちのお囃子で笛と出会った。「実は、そのあとも笛をずっと続けていた、というわけではなくて。むしろギターを弾いたり、洋楽を聞いたりと日本の音楽とはかけ離れたところにいました。ところが海外へ行った時、現地の人たちが自国の音楽を大切にしているにもかかわらず、自分は日本人として自分の国の音楽を全然知らないんだって気づいて。それが日本人としての意識を持ったきっかけでした。自分が生まれもった“血”で演奏する、現地の人々の湧き躍るような印象を感じて。これまで自分は何をしてきたんだ!ってショックをうけました」。 その後、音楽をやっていこうと決めた時に選択したのが篠笛だった。「源氏物語の登場人物や、牛若丸が笛を吹く姿に思いを馳せたりもしました。これを追求していけば、世界に通用するのではないかって自信が持てて、日本人に生まれて良かったと思えました。この気持ちを笛の音色にのせていろんな人に届けたい、そう思っています」。

日本人にながれる血の記憶

雅楽の楽器の一つとして中国から伝わった竜笛が姿を変えたのが篠笛だといわれている。伝わった当初は位の高い人々の間でのみ演奏されてきたが、他の和楽器に比べて作りが簡単なことや、各地の祭りや伝統芸能と結びつき広く庶民たちに広まったという。「祭囃子として長年日本人の生活に寄り添ってきた笛の音色は、きっと日本人の生まれ持つ血そのものにしみ込んでいるのだと思います。だから、音色を聞いた時には“懐かしさ”を感じる。香りも同じで、日本人が古くから育んできた文化の中に、香りの文化があったからこそ、触れた時に安らぎを得られる。そんな瞬間が、日本人としての“血”が目覚める時なのではないでしょうか」。 日本人でありながら忘れてしまっている感情や感覚が、音楽や香りによって呼び覚まされる。ずっと前から知っているような、見たことのない情景を思い出す。そういった不思議な力が、音楽と香りには備わっているのだ。「音楽と香りには共通することが多くあるし、両方を一緒に感じた時の感覚というのはまた新しい発見になるかもしれませんね」。

香りと篠笛のシンパシー

篠笛の音色は音階によって笛の長さが違い、長くなれば音色は低く落ち着いた音程となる。曲のイメージにあわせて使う笛を選び、そして同じ笛でも吹き方によって全く印象が異なる。しなやかで伸びのある音色、躍り出したくなるような軽快なリズム、心の芯に響く、落ち着いた渋い音……その音色は、心の奥をふるわせる。1本1本の笛からまるで違う音が奏でられる。笛の音色から彼の想像する風景が見えるようだった。「旅先の美しい景色の中で聞いてもらうことが一番です。景色を楽しむためのBGMとして奏でられたら、そして、その曲をどこか違うところで聞いた時に、またその景色を思い出してもらえたら……そんな体感を与えられるような演奏がしたいと思っています」。笛の音ひとつで、その場にいる皆さんが見る景色をかえられるのも演奏の楽しみ、と佐藤さん。

「香りと篠笛とに今回、とてもシンパシーを感じました。目には見えない香りにストーリーや言葉を添えたり、またその逆でストーリーから香りを生み出したり、そういったところが曲作りにも似ているなと強く感じています」。日本の景色をテーマにした香りに強く興味を持って香りを楽しんでくださった佐藤さん。月をイメージしたMOONでは自身の曲「きみとみる月」とイメージがシンクロすると話してくれた。

「聞く」ことは、人とつながること

「聞く」とは、目に見えないものに感覚を研ぎすまして感じること。日本人としての意識を強くもって演奏する佐藤さんにとって「聞く」ということがどんな意味を持つかをうかがった。

「音が聞こえるのは目には見えない空気の振動、波ですよね。その振動が相手に伝わるのがその人とつながる瞬間だと思うんです。発する音や言葉にはその人の心や思いが含まれていると思います。“聞く”ということは発する人の思いや気持ちを感じ取るということかな。だから、演奏する側として、曲にこめた思いや情景をしっかりとイメージしながら音を奏でています」。音が空気の波となって相手に伝わり、そこにこめられた思いが伝わる瞬間。その一音に描かれている背景を捉えられたその瞬間に、私たちは感動を覚えるのだろう。


音や言葉、香りをの向こう側にいる人の思いや感情を知り、自分の中にある日本人としての記憶を思い出す。計り知れない可能性をもつ音楽と香り。「日本に生まれて良かった、そう思える場所を、笛を通して作っていきたいですね、香り、景色など様々なものと一緒に。そして、大きな意味でいえば、和楽器が子供たちにとって邦楽への入口になれたら、そんな可能性にも思いを馳せています」。

夏に、どこかからともなく聞こえてくる祭囃子に、きっと私たち日本人がもって生まれた感覚が呼び覚まされるだろう。

Artist Profile アーティストプロフィール

篠笛奏者 佐藤 和哉

篠笛奏者 佐藤 和哉

篠笛奏者・作曲家
九州は佐賀県唐津市の海辺に生まれる。
中学生で「唐津くんち」の囃子を学び、この時初めて横笛に触れる。 ピアノ、ドラム、ギター弾き語りなど、音楽に没頭する 少年期を過ごすも、自分の中の『日本人の血』に目醒め、和楽器の演奏を始める。
大学卒業後、篠笛と出会い、その音色に魅了され篠笛奏者の道を志す。
現在、東京を拠点に音楽活動を展開。 全国で公演を重ね、篠笛の講師としても精力的に活動。2012 年06 月には国宝・薬師寺東塔解体式典「宝珠降臨法要」にて献笛を勤める。近年では、作曲家としての活動も展開し、2013年NHK連続テレビ小説『ごちそうさん』主題歌「雨のち晴レルヤ(ゆず)」には、モチーフとして自身作曲の「さくら色のワルツ」が採用され、作曲に携わる。また同作は、2014年日本レコード大賞 優秀作品賞を受賞。2016年には、佐賀県嬉野市の曲を制作。佐藤の篠笛は"自心"と素直に向き合い、自身の経験・感情から生まれる旋律を、日本人の伝統と感性が創り上げた篠笛を通して表現することに一貫している。

主な履歴:
2016年01月 佐藤和哉 作曲 佐賀県嬉野市「市曲」を発表。
2015年03月~05月 初の全国ツアー「さくらの旅路」を名古屋・京都・福岡・大阪・仙台・横浜の6都市で開催
2014年12月 ゆずとの共同作曲作品「雨のち晴レルヤ」が2014年日本レコード大賞 優秀作品賞 受賞
2014年09月 2ndアルバム収録楽曲「古道」が、熊野本宮大社「瑞鳳殿」テーマ曲に決定
2014年05月~09月 ゆずアリーナツアー2014「新世界」にサポートミュージシャンとして参加
2013年12月 紅白歌合戦 ゆず『雨のち晴レルヤ』にハレルヤ楽団として出演
2013年09月 ゆず『雨のち晴レルヤ』のモチーフに自身作曲「さくら色のワルツ」が採用され楽曲制作に参加 また、NHK連続ドラマ小説「ごちそうさん」の主題歌に決定
2012年06月 国宝・薬師寺東塔「宝珠降臨法要」にて篠笛献笛

▶篠笛奏者 佐藤和哉 オフィシャル WEB

Discography
1stアルバム『ふうちそう』(ふうち草)2013年05月25日
2ndアルバム『かなでの旅路』(ふうち草)2014年08月01日
シングル『帰路の夕焼け』(ふうち草)2015年03月20日

かなでの旅路

かなでの旅路 [2014.8.01]