lisn to MUSIC

音楽と香り。それは日常にさまざまな形であふれているが、どちらも敏感に感じなければ深くふれあうことはできない。
しかし、ひとたび感じることができれば、心に潤いと活力をあたえてくれるもの。
音楽も香りもその感じ方は「聞く」と表現される。
感覚を研ぎすませて香りを感じること、心を大きく開いて音楽に耳をすますこと。
“Lisn to MUSIC”は、暮らしの中で「聞く」ことを大切にしているリスナーに向けたwebコラム。
リスンとアーティストが出会い、そこから生まれるストーリー。
第七回のゲストは、10-FEETのTAKUMAさん。2回にわたりお届けします。

心のスペースを共有する音楽

2016.06.22

楽曲づくりや香りに対する思いをうかがった前編。
後編では、京都について、新曲への思い、そして“聞く”ということ、など幅広くうかがいました。

>>前編はこちら

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京都に思うこと

日本各地をフェスやツアーでまわる彼ら。地元京都という存在について深い言葉が聞こえてきた。自ら主宰する音楽フェス“京都大作戦”では、日本全国からのファンが京都へ集う。頭でも心でも京都のことを理解し、地元であることを意識するという。
「京都には誇りを持っている人が多いですよね。昔、都であったこともあるんでしょうけど、例えば建造物を見ていても、こっちから見るのが綺麗ですって押し付けるんじゃなく、見る人の状態までイメージして作っているというか……すごく繊細な部分で描いたりしてきたのかなって。それは、色々なことに気づける人たちが、何代も面白さや感覚を伝え追求してきたからできたことだと思いますし。一言でいうおもてなしではなくて、人をわかってあげる、そして美や芸術を理解し、表現できるだけの技術や歴史を積み重ねてきているから、誇りを持っている。ブランドさんでも職人さんでも。そういう人たちと共に生きてきた人が多いから、品や誇りが派生したのかなとも思うんですけど。……簡単にいうとプライド高いだけかもしれないけど(笑)。優しさにも、謙虚さにも慎ましさにも誇りを持つぐらい、考えたりしてきたから、根性あるし、誇りがある。誇り高い人たちの優しさってすごく奥深くて味わい深いものがありますよね」。

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相手と心のスペースをどれだけ共有できるか

音楽で伝えていきたいことは、という問いには真っすぐな答えが返ってきた。 「伝えたいことはひとえに、みんなと重なりたいということ。そのためにどんな音楽でどんな言葉を伝えていくか。難しいですが、やりがいがあります。僕が10代、20代のころは悲しいこと悔しいこと、後悔のデパートだったんで(笑)。伝えたい思いだけにこだわっているわけではないけど、作ることに時間をかけたり普段から考えていることは、どうやったらみんなと重なれるかということだと思うし」。悲しさや寂しい思いを共有したい時、それを直接的に言うのではなく、なぜそう思うかやそれを感じるふとしたシーンを共感したいという。

「夢を諦めなければいけなかったり、失恋をしたり……そういう時って、普通ならよっしゃ今日も始まった!と思えるはずの朝日が痛かったり、せっかくの休日で天気もよくて完璧なのに、それが痛く感じる。人と思いを共有したい“時”って難しくて、言葉にすると地味で素朴な描写だったり、時には陳腐だったり。でもやっぱり、そういう相手と心のスペースをどれだけ共有できるかだと思うんですよね。男も女も小さなことに気づいてくれる人って素敵じゃないですか。気づいて汲んでくれる時もあれば、わざと気づかないふりしてそっとしておいてくれたり。そういう曲と歌詞を作れたらいいなって思いますね」。

錆びたアンテナだからこそ受信できる、感動とか優しさも絶対にあるはず

7月20日にオリジナルとしては4年ぶりとなるシングル「アンテナラスト」を発売する10-FEET。4年という日々は彼らが思いを募らせた時間。そして音楽として円熟する時を待っていた時間だったという。錆びたアンテナという意味合いを込めた「アンテナラスト」とうタイトル。タイトルに込められているのは、やはり彼らの寄り添う心だ。

「いろいろ経験して大人になって、相手の気持ちを分かってあげられるようになった分、傷つく場面もいっぱい増えて。相手のことも理解したいけど、傷つきたくないとも思う。そう思って生きてきた結果、誰かの言葉の裏をすかし見ようとしたり、優しさを疑ってしまったり、大人になればなるほどそういう場面やコンディションに陥ることが増えていると思って。だけど、それが10代、20代の純粋な感受性とは違う、今はずいぶん錆びついてしまったけど、だからこそ受信できる感動とか優しさとか、わかることも絶対にあるはずだから。優しい分ぼろぼろになりながらも、ずっと優しいままでいる人とか本当に好きなんで、そういう意味を込めた言葉ですね。曲中の『時が悲しみを乾かしても、錆付いたアンテナをかざしてた』というフレーズ、一回しか出てこないんですけど、それも今回伝えたかったことで。ビート感や、いかにロックするかを考えて、激しくはしたつもりですが、激しさだけがそれを伝えるわけじゃない、ということもわかっているので、こういう感じに仕上げたかったという、一番いい今の10−FEETの楽曲を作れたんじゃないかなって思いますね」。

若い頃にとれなかった一番を、この歳でとれたら

これからの思いを聞くと、ストレートでありながらもそこに込められた思いに、またしても心が動かされる。
「一番になりたいですね、どんな形でも。CDの順位でもいいし。やっぱり男なんで、一番とりたいねん!って(笑)。オリコン一位とかもちろんとったことはないですし、すごい世界だから。でもこういうややこしいことを言っているような内容のもので一番を取れたら面白いなって。もう40にもなってしまって、決して体力的にもいろんな意味合いでも最良の時ではないということを10年くらい前からメンバーみんなも思っていて。だからこそ若い頃にとれなかった一番を、この歳で取れたら、僕らと同じ年代や、歳下の20代、30代の人にも、歳を重ねることも悪くないという勇気を与えられると思うし、そうなりたいですね。元気良くて才能あるヤツばかりなんで、頑張ってそこで一番とってみたいですね」。

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ニュートラルでいること

最後に「聞く」ということについて訊ねると、じっと考え、言葉を選びながら思いを聞かせてくれた。
「聞くっていうのは、聞こうと思ったり迎え入れる気持ちがないと頭にも心にも届かないと思うので、開こうとする作業……なのかな、心を。でも聞こうとしてもできないこともたくさんあるし、不意打ちで聞いた時の方がすっと入ってくることもあると思うんです。でも、聞こえるとはまた違う。聞くというのは迎え入れる、開く。それをできるようになるまで、聞くことができたらすごいですね。きっとどれだけニュートラルでいられるかっていうことなんでしょうね。だから、そういう意味でも香りはニュートラル発動装置なんですよ(笑)」。

かならず香りになぞらえながら、思いを語ってくれる彼の姿。そこには、彼らが一貫して表現し続けている、相手の心に重なる、という思いが表れているようだった。間違いなく、既に多くの人の一番となっている10-FEET。だが彼らが思う一番を得たとき、私たちはさらに彼らの歌声や姿に心をふるわすこととなるのだろう。音楽と香りの持つ力をいつまでも信じていたい。

Artist Profile アーティストプロフィール

10-FEET

10-FEET

LtoR
KOUICHI(Dr./Cho.)
TAKUMA(Vo./Gt.)
NAOKI(Ba./Vo.)

シンプルな3ピースという形態でありながら、メロコアと言うジャンルでは既に括る事のできない音楽性は、ROCK、PUNK、HEAVY METAL、REGGAE、HIP HOP、GUITAR POP、BOSSA NOVA等のジャンルを10-FEET流に取り入れ、幅広い独自のものを確立している。
また年間100本近い精力的なライブ活動も、その迫力満載のライブパフォーマンス、人間味溢れる、深いメッセージが込められた歌詞、笑顔を誘い出すキャラクターで常に話題を振りまいている。 エンターテイナー性溢れるその活動スタイルを徹底している。
さらにその活動は日本はもとより、アメリカツアー、韓国、台湾でもライブを行い、音楽の力で国境を越える事ができる日本では数少ないバンドである。
また、2007年から自身で主催する野外フェス「京都大作戦」も大成功におさめている。

▶︎10-FEET official web site

▶︎NEW RELEASE
『アンテナラスト』2016.7.20 on sale
M-1, アンテナラスト
M-2, skatting
M-3, BombBass Kinny

▶︎京都大作戦 2016 〜吸収年!栄養満点!音のお野祭!〜 official web site

アンテナラスト

アンテナラスト [2016.7.20]