音楽と香り。それは日常にさまざまな形であふれているが、どちらも敏感に感じなければ深くふれあうことはできない。
しかし、ひとたび感じることができれば、心に潤いと活力をあたえてくれるもの。
音楽も香りもその感じ方は「聞く」と表現される。
感覚を研ぎすませて香りを感じること、心を大きく開いて音楽に耳をすますこと。
“Lisn to MUSIC”は、暮らしの中で「聞く」ことを大切にしているリスナーに向けたwebコラム。
リスンとアーティストが出会い、そこから生まれるストーリー。
第十回のゲストは、サックス奏者の前田サラさんです。
2017.09.11
「ゴスペル」。それは神様に向けて、祈りを捧げるための音楽。今回お話をうかがったのは、そんな音楽をルーツに持つ、サックス奏者の前田サラさん。力強く、凛とした瞳が印象的だ。初めて彼女の演奏を聞いたとき、その感情を揺さぶられるような音色に心をつかまれた。
彼女と音楽との出会いは、母親のおなかの中にいるころ。音楽の大好きなご両親のもと、洋楽から邦楽まで様々な音楽とともに暮らしてきた。教会の牧師でありながら、シンガーソングライターでもある父親の教会で、ドラムを演奏するようになったのは、小学4年生のときのこと。その後、中学校の部活が始まるのをきっかけに、サックスを演奏するようになった。「ミュージシャンになるっていうのは、小5くらいのときから決めてたんです。どうやってなったらいいのかとかは知らなかったですけど、夢に疑いはなくて。流れるように、導かれるようにここまできました」。彼女の音楽は、家族とともに奏でることから始まった。ベース、ギター、ピアノ、ドラム……。様々な楽器や歌声でつむぎだす、家族みんなでつくり上げてきた音楽は、今も彼女の音楽の原点となっている。
そんな前田さんが家族とともに暮らしたのは、福岡、長崎、神戸、東京。生まれ故郷の福岡や、大自然の中過ごした長崎での日々、サックスを始めるきっかけとなった、神戸での思い出、音楽の道に進むことを決めた、東京でのエピソード……。4つの場所をふるさとにもつ彼女の記憶の中にある香りは、いったいどんなふうなのだろう。「神戸も長崎も大好きですね。長崎では自然にふれあう機会がすごく多くて、よく虫を捕まえにいったり、山にも川にも遊びにいきました」。「だから、土の匂いをかいだときに、泥んこになって遊んだ記憶がよみがえったり」。やんちゃだった幼い頃、塀によじ上って錆びた釘でけがをしたこと、春になると、母親と一緒によもぎを摘んで、よもぎ餅をつくってもらったこと。リスンの香りにふれることで、懐かしく、あたたかなエピソードがつぎつぎとあふれ出す。前田さんにとって香りは、彼女の大切な記憶と、確かに繋がっているようだ。
前田さんが本格的に音楽の道へ進もうと決意するきっかけを与えてくれたのは、都内で行われていたジャムセッション。飛び入り参加でステージに上がり、その場にいる人たちとともに演奏をすることができるこのセッションが、当時17才だった前田さんと、彼女の演奏に惚れ込んだミュージシャンたちとが繋がるきっかけとなった。言葉も介さずに直接心に届くようなパワフルでいて心地よい音色。当時その場にいたミュージシャンたちもきっと、彼女のサックスのそんな音色に心惹かれたのだろう。この、心に届く音色の表現は、彼女の音楽のルーツと深く関わっているらしい。「ゴスペル出身っていうのはやっぱり大きいなと思っていて。教会で演奏しているときに感じる、魂の震えるフィーリング。そこからきている表現なんだと思います」。幼いころからいつも彼女の一番近くにあった「ゴスペル」という音楽。魂を歌い、神様に向かって奏でられるその音楽は、まさに魂を震わす音楽そのものだった。
「お母さんのおなかの中で(楽曲を)聞いていたミュージシャンと共演することもあります」。そんな、夢のようなことを実現させてしまう前田さんにも、音楽の世界で挫折しそうになった時期があった。 「17歳のときに、大人の方たちと演奏するようになったので、とにかく言われたことを全部鵜呑みにしてしまって苦しくなった時期もあって。アドリブが出てこなくなってしまうこともありました」。自分の思う音楽が表現できずに自信をなくしかけていたそんなある日、すばらしい出会いに恵まれた。その日はたまたま、教会での演奏待ちの時間に、環状七号線沿いで音出しをしていた前田さん。本番の演奏が終わり、たまたま通りがかった駅のロータリーでばったり出会った男性に声をかけられた。
「環七でサックス吹いてた子だよね?」
その方が、ドラマーの中村達也さんだった。「その場で連絡先を交換したりはしなかったんですけど、お互いに名前だけ交換して。後日、また奇跡的な形で巡り会ったんです。それである日、達也さんが『今度一緒にやろうぜ!』って言ってくださって。そのときは思わず『私上手じゃないんで……』なんて言ってしまったんですけど……そしたら(中村さんが)『上手な人なんてたくさんいるけど、心に届く演奏ができる人はなかなかいないよ』って言ってくださって」。「その言葉で、『自分らしくやればいいんだ。これが自分だ!』って思えるようになったんです」。
「リスン トゥ ミュージック」。音楽を聞くことは、前田さんにとって、どんな意味をもつことなのだろう。「ミュージシャンとしての私にとって『聞く』って、二つあると思います。まずひとつは、リラックスできるもの。心の休まるものというか、とにかくリラックスするために、聞く。で、もうひとつは、私の肥やしになるもの。聞くとやっぱり、フィーリングが身につくというか、聞いてるのと聞いてないのとじゃ、ものをイメージできるかできないかって変わってくると思うんです」。「聞く」ことは、自分を成長させ、自分の中に何かを蓄えさせてくれるもの。彼女のそんな考え方が彼女の演奏と重なり、人の心を動かす音楽ができあがるのだろう。誰かが奏でる音楽が人の気持ちを動かすこと。きっと、どんな人にでもできることではないと思う。前田さんの、魂を震わすような音楽が、これから先、一人でも多くの人たちのもとへ響き渡りますように。
1991年、福岡県北九州市生まれ。
教会の牧師であり、シンガーソングライターの父、音楽好き母の元6人兄弟の長女として育つ。
小学4年生のときに神戸に移り、父の教会でドラムを始める。中学校の吹奏楽部では、吹奏楽部に所属するも抽選でクラリネット担当となるが、元々希望していたサックスに憧れ、安価なサックスを購入。翌週には教会で吹き始める。16歳で家族と共に東京に移る。高校に進学せずアルバイトで家計を助けながらサックスの演奏に専念し、家族とともに教会やストリートでも演奏するようになる。17歳の頃から東京のライヴ・ハウスのセッションに積極的に参加し、様々なミュージシャンとの交流を重ねる。
19歳、高円寺環状7号線の歩道での練習中にドラマー、中村達也(ex-BLANKEY JETCITY)に声を掛けられ、後にthe day:中村達也(ds)/KenKen (b)/蔦谷好位置(key)/仲井戸麗一(g)のサポート・メンバーとして加入する。同じく19歳の頃、教会のイベントで渡米した際に世界的なサックス・プレイヤー、ロン・ブラウン(sax)と知り合い意気投合。2年間スカイプでレッスンを受ける。2015年末、リッキー・ピーターソン プロデュースの「From My Soul」でビクターよりメジャーデビュー。現在、自身の前田サラBand の他、女性ファンクインストバンド「BimBamBoom」、竹内朋康(ex.SUPER BUTTER DOG)主催の「Magic Number」、GLAYのギタリストTAKUROのソロツアーへの参加。さらにカウントダウンジャパン、フジロック、ライジングサンなどの大型フェスに出演するなど、幅広い活動を展開している。ゴスペルをルーツに持つ、熱いファンク・ソウル感、溢れるそのプレイスタイルは、様々な音楽界隈で注目を浴びている。
【これからのライブ】
■10/24(火) 『前田サラBand Live At JIROKICHI』出演 @高円寺 JIROKICHI
【時間】OPEN 18:30 / START 19:30
【料金】3,200円(前売り:2,700円)
Tel & Fax : 03-3339-2727 (18:00-24:00) ※営業日のみ
【メンバー】前田サラ(sax)、竹内朋康(gt)、寺田正彦(key)、堀井慶一(ba)、下久保昌紀(ds)
■9/20(水) BimBamBoom & SHELTER presents『Tokyo Special Sauce vol.05』出演 @下北沢 SHELTER
【時間】OPEN 18:30/START 19:00
【料金】3,000円 +1ドリンク(前売り:2,500円)
Tel:03-3466-7430
【予約】8/23(水)~ ●店頭 ●ローソン(Lコード:71251) ●イープラス ●BimBamBoomメール受付
※『Tokyo Special Sauce』今後の開催スケジュール 10/25(水)、11/22(水)、12/20(水)
■9/28(木) 竹内朋康 Presents『Return Of Rare Groove "Magic Number Vol.42"』出演 @元住吉 POWERS2
【時間】OPEN 18:00/START 20:00
【料金】3,000円(前売り:2,500円)
HP:http://www.powersbar.com/
Tel:044-455-0007
■10/11(水) 『PB WEDNESDAY!』出演 @下北沢 Circus
【時間】OPEN 19:00 / START 20:00
【料金】3,000円(前売り:2,500円)
Tel:03-6677-5986
前田サラ「From My Soul」 [2015/12/23]