音楽と香り。それは日常にさまざまな形であふれているが、どちらも敏感に感じなければ深くふれあうことはできない。
しかし、ひとたび感じることができれば、心に潤いと活力をあたえてくれるもの。
音楽も香りもその感じ方は「聞く」と表現される。
感覚を研ぎすませて香りを感じること、心を大きく開いて音楽に耳をすますこと。
“Lisn to MUSIC”は、暮らしの中で「聞く」ことを大切にしているリスナーに向けたwebコラム。
リスンとアーティストが出会い、そこから生まれるストーリー。
第八回のゲストは、John John Festival のjohn*さんです。
2016.10.04
楽しそうでリズミカルで、楽器の音色にある優しさに心がほっとするような、そんな音楽。異国情緒あふれるリズムでありながら、どこか懐かしい。オーケストラのような緊張感漂う演奏とはちがい、広く私たちを包み込んでくれるようなアットホームな演奏スタイル。John John Festival (ジョンジョンフェスティバル)は、そんなアイルランドの音楽を演奏する3人組。フィドルのjohn*(ジョン)さん、バウロン奏者のトシバウロンさん、ギターのannie(アニー)さんで2010年に結成され、これまでにアルバムを3枚リリース、国内外で活躍するアイリッシュミュージックのバンドだ。まずはアイルランドの楽器をつかい奏でられる彼らの音楽を聞いていただきたい。
リラックスして聞く人、リズムにあわせて踊る人、食べたり飲んだり語らったり、彼らの奏でる音楽を聞きながらも、それぞれがその空間で過ごす時間を楽しんでいるのが印象的だ。アイルランド音楽のルーツはこのアットホームな演奏スタイルにあるという。John John Festival でフィドルを演奏する、john*さんはそんなお話を聞かせてくれた。
リスンとの出会いは10年程前、青山のショップで
「アイリッシュ音楽は、もともとアドリブを聞かせるというタイプの音楽ではなくて、同じ旋律をみんなで演奏するような音楽なんですね。家やパブに楽器を持って集まって演奏したり、もともとダンスの伴奏のための音楽なので、自然とからだを動かしたくなる音楽です」。john*さんはフィドル奏者。可愛らしい雰囲気と声、そしてフィドルの軽快な音色が本当によく似合っている。フィドルとはバイオリンのこと。アイリッシュの音楽を奏でるものを特別にそう呼ぶという。旋律と装飾音などアイリッシュ独特の弾き方によって、同じバイオリンでもクラシックとは全く別の楽器の音色のようだ。3歳からバイオリンを習っていたが、進学した音楽大学ではバイオリンだけの道を歩むのではなく、広く音楽学を学んだという。アイリッシュ音楽をはじめたきっかけは何だったのだろうか。
「大学で入ったサークルでアイリッシュ音楽と出会ったのがはじまりでした。アイリッシュの音楽はそれまで聞いたことがなくて、先輩にバイオリン弾くんだったらって教えてもらったんです。まさかこんなずっと続けられるなんて思ってなかったですね」。大学でのサークル活動ではギターのannie(アニー)さんとの出会いもあったという。その後、ほかのバンドを経たのちに、annieさんと知り合いだったトシバウロンさんと共にJohn John Festival を結成。
「バンドを結成したきっかけは……トシさんと出会ってすぐに、佐賀へ一緒に演奏に行かないかって誘われて、実はそのときだけの即席バンドだったんです。バンド名も大学時代にあだ名がジョンだったことから、急遽そのときにつけてしまって。笑。最初は本当に小さなきっかけで、こんなにしっかりとバンドとして続くと思ってなくて。でも3人で演奏したのが楽しかったんです。当時はまだ学生だったので、音楽を仕事にと思ってはいなかったんですが、バンド活動をする中で、ライブすることが楽しくなり続けてこられました」。
自然とはじまったアイリッシュの音楽の活動。john*さんの音楽活動のこのゆるやかなはじまりと流れは、アイリッシュ音楽のスタイルにも似ているかもしれない。アイリッシュの音楽は、アイルランドの人々の暮らしの中にあった。長年その音楽が、その地域や国の人に愛され、大切にされて受け継がれてきた。作曲者も題名もさだかではなくても、みんなが知っている曲がいくつもあるという。受け継ぐと言っても決して特別なことではなかったはずだ。生活の中で音楽を楽しむということが揺るぐことなく、自然と継承されていったのがアイリッシュ音楽のルーツと言われている。
フィドルを近くで見せていただいた。弦は4本。弓には馬の尾がつかわれている。小柄なjohn*さんの肩にちょこんと乗ったフィドル。彼女とこの小さな楽器からあんなにも力強くリズミカルな音が紡がれるのかと驚く。このフィドルとは14年程を共に過ごしてきた仲。ひとつひとつの音を慈しむように弾くjohn*さんの姿。空間が音楽で満たされる。確かに、静かに座って聞くのではなく仲間とわいわい聞く方が魅力が何倍にも増す音楽なんだろうと実感する。
私生活では出産などもあり、2年間休止していたバンド活動を2016年から再開。この10月にはカナダのケープブレトン島でひらかれる、最高峰のケルト音楽フェスに日本のバンドとして初めて出演するという。普段の暮らしでも、できるだけ出かけ外の空気を感じることを大切にしているというjohn*さん。活動を再開したこれからは海外へも出かけ、様々なことを体感して知りたいと語る。また年内にはアルバムもリリース予定だ。「休む前は、忙しいスケジュールだったんですが、再開してからはゆっくりと進んでいます。活動再開にあたってアルバムを出したいねっていう思いがあって、2年前にはまだアルバムに入ってなかった曲や、新しい曲なんかもあるので、休止前とは違う1枚になっていたらいいなって思っています」。
最後に、john*さんにとって「聞く」とはどういったことかをうかがった。言葉を選び、考えを巡らせながら答えてくれた。
「普段の生活でもいろんな音って聞こえてくるから……。集中して聞くこともあるし、聞くことってエネルギーがいるなって思うんですよね。でも、エネルギーもいるけど、逆に元気をもらうこともできたりして……うーん、難しいですね。視覚だけじゃわからない情報も聞くことが彩ってくれたりもするし。聞くこととうまくつき合っているんですね、人間ってきっと」。
これまで積み重ねられてきたアイルランドの音楽をこれからも大切に演奏していきたい、と語ってくれたjohn*さん。自身の思いをつよく言葉にして表現するような彼女ではないけれど、異国の地で培われてきた音楽の文化を大切に慈しんで、奏でることを楽しむ姿が、多くのファンを生むのだろう。アイルランドでそうされてきたように、ゆったりと暮らしに寄り添うような音楽をこれからも私たちに聞かせてほしい。
イギリスの隣の小さな島国、アイルランドの音楽を演奏する3人組。
フィドル(バイオリン)と歌、ギター、それにアイルランドの太鼓
バウロンを使って奏でる音楽はリズムやグルーヴ、
優しさ楽しさ、時に哀しさに満ちている。
空気に触れて、呼吸を合わせてどこまでも高く登りつめ、
呼吸を整えてどこまでも静かにささやく音楽。
弾く人も聴く人も幸せにする、それがJohn John Festival。
結成2010年1月。
1st album『John John Festival』同年10月リリース。
2012年3月に2nd album『歌とチューン』をリリース。
2013年8月にシンガー笹倉慎介とのコラボレーションアルバム『trek trek』をリリース。
年末には青山CAYでの自主企画「JJF感謝祭」を開催。
森のカフェフェスinニセコ、Life is beautiful、東京蚤の市、
森道市場といった野外フェスにも多数出演。
2014年1月にはオーストラリアツアーを成功させる。
2014年6月から2年間の活動休止期間を経て、2016年より活動を再開。
2016年10月、世界最高峰のケルト音楽祭Celtic Coloursに出演決定!
年内に笹倉慎介プロデュースによるニューアルバムをリリース予定。
▶︎John John Festival official web site
Forget me not [2016.11.12]