lisn to MUSIC

音楽と香り。それは日常にさまざまな形であふれているが、どちらも敏感に感じなければ深くふれあうことはできない。
しかし、ひとたび感じることができれば、心に潤いと活力をあたえてくれるもの。
音楽はもちろんのこと、香りもその感じ方は「聞く」と表現されることがある。
感覚を研ぎすませて香りを感じること、心を大きく開いて音楽に耳をすますこと。
“Lisn to MUSIC”は、暮らしの中で「聞く」ことを大切にしているリスナーに向けたwebコラム。
リスンとアーティストが出会い、そこから生まれるストーリー。
第十五回のゲストは、サヌカイト奏者の小松 玲子さんです。

地球が生んだ平和の音

2025.06.09

サヌカイトという楽器をご存じだろうか。柔らかく響き、包み込むような音の余韻が心地よい楽器だ。パーカッションに分類される楽器だが、素材は金属でも木でもない。同じくサヌカイトという学術名がつけられた石を削って作られている。約1300万年前に火山活動により噴出したこの石は、叩くと金属音のような音が響くことから、多くを産出する香川県ではカンカン石とも言われている。今回はそんな不思議な石で作られた楽器、サヌカイトを演奏している小松さんに話を聞いた。



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サヌカイトとの縁

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香川県出身の小松さんは地元の音楽科のある高校に通い、四国の音楽研究会でサヌカイトの演奏者に選ばれたのが最初の出会いだそう。ところが「初めは良い印象じゃなかった」と語る。「叩くと揺れるし、貴重なものだからあまり練習もさせてくれなかった。良い音だけど高校生の私にとっては扱いにくい楽器でした」。

そんな小松さんが、再びサヌカイトと関わることに。「進学した大学の打楽器科の教授のすすめで、香川県にいるサヌカイト製作者へご挨拶に行ったんです。全財産と命をかけて楽器を作った方で……。そんな方に他の楽器をやめてサヌカイトだけをやって欲しいと何度も言われて。でも当時の私にはとても引き受けられなかったです。それから数年経って息子さんの代になったとき、他の楽器もしながら気楽に使って良いよと言われました」。

そして本格的にサヌカイトの演奏をするようになったのは24歳ごろだそう。まるで石に選ばれたかのような、サヌカイトとの不思議な縁を感じてしまう。



サヌカイトが楽器として今の形になったのは約40年前。まだ新しい楽器だ。

演奏するにも正解はなく、今もなお試行錯誤しているのだとか。「先人も自己流だったと思う。先人には先人のサヌカイトの世界があって、私には私の世界がある。次の世代はまた違う世界でサヌカイトを広めていってくれたら良いですね」と微笑みながら語ってくれた。

音を求める本能

小松さんとっての「聞く」ことについて聞いてみた。少し考えてから、「聞くことって本能だと思う。でも、みんな忘れている」そう強く答えてくれた。

「街に出ているときヘッドフォンはしないし音楽も聞かない。もともとの音が多すぎるからかえって耳が疲れてしまう。でも地元に帰って自然のなかにいると、不思議と音楽を欲するようになるんです」。今、世界はさまざまな音にあふれている。人の声、生活音、機械音、化学音……。意識しなくても勝手に多くの音が耳に入ってしまうのが当たり前の現代で、心から音楽を求める瞬間はあっただろうかと、思わず考えてしまう。

「ある人が言っていたのだけど、本当に伝えたいことは、小さい声で良いんだって。そうすればみんなが耳を傾けてくれる」。サヌカイトはまさにそんな感じなのだと小松さんは言う。大きな音の出る楽器ではないので、コンサートでもその演奏は静かなのだそう。すると聞く人それぞれは集中して、大地から切り出してきた石の音色に耳を傾けてくれる。きっとそれぞれにさまざまな景色を思い浮かべながら。
自然
と「聞く」ことができる演奏にぜひ触れてほしい。



    

平和を願って

どこまでも優しく、寄り添うように奏でられるサヌカイト。この楽器の音は、「平和の音」としてG7の会合でも響いた。小松さんは国籍の違う人々の反応を直に見て、「国境も人種も超え、全てを包み込んでくれる音」だと改めて感じたそう。

「今は香川県の石というイメージがあるけれど、もともとは人間も、国境もない時代からある石。平和へのメッセージは、その音を聞くだけで伝わると思う」。音楽は言葉のように直接的ではないけれど、強く響くのだという小松さん。それは香りも同じだと語る。「音楽も香りも頭を通っていかない。直接心にいくもの。それはすごいことだけど、だからこそ注意して扱わないといけない」。

争いの火種になる可能性も秘めていること、そしてそれを判断するのも我々人間であること。平和への願いを込めて、小松さんは静かに、でも力強く語る。



「良いものは、良い形で伝わってほしい」。

1300万年前の石が響かせる平和の音。

香りがゆるやかに広がるように、サヌカイトの音色も、人々の心にやさしく響き渡りますように。



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Artist Profile アーティストプロフィール

小松 玲子

小松 玲子

香川県高松市出身。高松第一高校音楽科、東京藝術大学打楽器科(四国出身者初)卒業。これまでに有賀誠門、高橋美智子、菅原淳、石内聡明、森ゆき子に師事。東京藝術大学管弦樂研究部、東邦音楽大学附属第二高等学校元講師。高松市観光大使。平成28年度よんでん芸術文化奨励賞、東久邇之宮文化褒賞受賞。
コマラジ「サヌカイトでシエスタ」第一、第三水曜日のレギュラーパーソナリティ。 https://www.komae.fm/wed/

小松玲子・サヌカイト後援会 
http://www.arte-e-musica.net/support.html

◆海外公演
コスタリカ世界竹会議への招待演奏
メルボルンフェスティバル
ボルドー音楽祭
クールジャパン パリ・ユネスコ国際会議場にて演奏
中国・陝西省西安市、江西省南昌市へ高松市長のメッセージを携え表敬訪問
観光大使として音楽を通じての文化交流に努める

◆国内公演
うつくしまふくしま未来博 開会式
デビットマシューズ率いるジャズクインテット“MJQ”ジャパンツアーにゲスト出演
全国育樹祭(佐賀、香川)で天皇、皇太子ご夫妻の前で演奏
ロンドンミュージカル
劇団四季等
福井、北九州音楽祭
日仏観光交流会
G7情報通信大臣会議
G7香川・高松都市大臣会合推進協議会
B20
和太鼓集団「鬼太鼓座」にゲスト出演、台湾、香港公演ではDVD制作にも参加
久石譲の全国ツアー2008、CD、DVD制作に参加
長崎で被爆した柿の木の2世を世界中に植樹することで『時の蘇生』を目指す
アート・プログラム「柿の木プロジェクト」に音楽家として初参加
委嘱した曲を演奏、CD制作

◆メディア出演
NHK スタジオパークからこんにちは、コレナンデ商会
日テレ メレンゲの気持ち、にじいろジーン
香港映画「西遊記」
ドキュメンタリー映画「千日回峰行 大満行」音楽担当
日経新聞、朝日新聞、等 多数出演

◆CD制作
LOVE LETTER
Voice of Sanukite
Sanukite Xmas
Sanukite lullaby
Luzazul
古事記〜幸くおはしませ
竹取物語 他

LOVE LETTER

LOVE LETTER [2014.2.14]