Seasonal Journey 〜Invitation for scent〜

植物と土の匂い香りから再考する畳の文化

2016.04.20

いぐさの香りをたどる

冬の間に植えられたいぐさの苗は、4月から5月にかけて成長し、夏の暑い時期に刈り取られ畳へと姿を変える。梅雨入り前に畳の張り替えが行なわれることも多いかもしれない。だが、畳のある暮らしから遠ざかっている人も多いだろう。フローリングの部屋が増え、畳の感触を知らない世代も増えているのではないか。それなのに、触れるとどこか親しみがあり、その匂いからは懐かしさまで感じられる。いぐさの育つこの季節、その香りをたどって九州へ。

ジャパニーズハーブ “いぐさ”

家具の町として有名な福岡県大川市は、花ゴザ(色柄を織り込んだゴザ)でも有名だ。古くから筑後地方は畳の材料のいぐさの産地であったため、今でも花ゴザ生産の9割が福岡県でされているという。広大な土地には水路が張り巡らされ、いぐさの水田を育む大川の町。この町に創業し66年という添島勲商店さんを訪ねると、あの親しみのある香りが出迎えてくれた。

「おばあちゃんの家の匂い、なんていわれることも多いんですが、いぐさには、森林浴の時に感じるフィトンチッドやバニラエッセンスに含まれるバニリンという成分が含まれていて、落ち着きや気持ち良さを感じさせてくれるんですよ」。そう教えてくださるのは、添島勲商店常務取締役の佐々木三紀子さん。ショールームにはカラフルなラグや畳表が並び、これまでのイメージが覆される。「いぐさは昔、漢方として使われていたり、いぐさ茶なんていうものがあったりもしたんです。初めてフランスでのインテリアの展示会に出た時に、“ジャパニーズハーブ”なんていってもらって、ハーブインテリアともいえるな、なんて思いました」。

香りの秘密

落ち着きや安らぎを感じさせてくれる香り。果たしてこれはいぐさそのものの香りなのだろうか。教えてくださったのは石橋直樹さん。織り元のお父様を持ち、ご自身はインテリア部門で働かれている。「いぐさそのものはね、青臭さが強いんだけど、泥染め(どろぞめ)といって、粘土の粉を水に溶いた中にいぐさをくぐらせることで、草と土の香りの混ざったような懐かしい香りになるんです。泥染めをすることで、いぐさも真っすぐにしゃんとなるんですよ」。泥にくぐらせることで生まれるという香り。いぐさそのものの香りだと思っていたあの香りは、“植物と土”という人間の暮らしに欠くことのできない、ふたつの要素が織りなす香りだったのだ。親しみを感じるのにも納得がいく。

心地良い感触は繊維から

いぐさには香り以外にも興味深いことがある。その感触だ。いぐさを切った断面を見るとよく分かるが、スポンジのような繊維質になっている。この繊維質に空気を蓄えているため、吸湿性、放湿性に富むという。自然の加湿器、除湿器といってもいい程に、いぐさ自体が温度や湿度調節をしている。夏にはさらりと涼しく、冬場は不思議とあたたかい。程よい凹凸もあって気持ちがいい。古くから使われているのには意味があるのだと実感する。

畳文化の再考

だが、日本の畳文化へ危機感も感じているという佐々木さん。「茶道や香道、柔道も、道がつく文化は全て畳の上で行なわれてきたんです。それがライフスタイルが変わり、畳が使われなくなり、中国産の安価ないぐさが市場の中心になって……日本の畳の文化が日本のものではなくなってしまう、そんな危機感を感じています。だから、私たちは安心安全な国産のいぐさや素材にこだわる。それが、ものづくりのポリシーです。広がりは小さいかもしれないけれど、誰かが守っていかないと、ね」。

質の美しさに誇りを持つ

織りの工場へ足を踏み入れると、規則正しい織り機の音といぐさの香りが心地いい。ひと織りごとに細かい模様が生み出される。真っすぐに伸びたいぐさの美しさには目を見張る。繊細なものづくりの現場。目先のデザインではない、質の美しさだ。10年ほど前から海外へのアプローチにも力を入れている。無理に形を変えることなく、自分たちが誇りを持って作るものを海外へ。そんな思いや技術が理解され、欧米からのオーダーも増しているそう。地域の産業を支える全ての人が、ポリシーと誇りを持ち、何よりもいぐさに愛情を持っていることが言葉の節々から伝わってきた。

いぐさや畳はけして懐かしむものではない。常に変わることなく存在していた暮らしの道具。ライフスタイルの変化にさらされ、忘れているのは私たち自身だ。日本家屋を吹き抜ける風。その風を感じ、日本の畳の文化をもう一度見直せるのが、我々でありたいと切に願う。


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