Seasonal Journey 〜Invitation for scent〜

思い出とともにあるもの一生に1つだけの鞄

2024.02.23

懐かしい記憶

立春を過ぎたとはいえまだまだ寒さが厳しい季節。 ほほを撫でる風はちくちくと冷たく、ほんのりと湿り気を帯びた枯葉の香りが鼻をくすぐる。
寒さに身を縮こまらせて歩く大人の横を、こどもたちが風のように駆け抜けていく。元気に跳ねる身体に合わせてゆれるカラフルなランドセル。それを眺めながら、初めてランドセルを手にしたときのことを思い出す。
たくさん悩んで選んだお気に入りの色と、真新しい革の匂い。喜びと同時に、新しい生活へのそわそわとした気持ちもあっただろうか。最初は大きく感じたランドセルも、いつのまにか自分の体に馴染んで、世界にひとつだけのものになっていた。
6年間を共にする特別な鞄。それは、どんな想いを込めて作られているのだろう。



鞄の街

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やってきたのは兵庫県豊岡市。コウノトリの生息地としても有名な、自然豊かな街だ。南北に流れているのは円山川。そのほとりに多く自生するコリヤナギを使って編み上げた「柳行李(やなぎごうり)」から始まった鞄づくりが盛んで、地域産業として根付いている。そんな「鞄の街」の守護神が小田井縣神社柳の宮。近年では「かばんの神様」と呼ばれ、豊岡市の鞄作りを見守っている。

こののどかな街に工房を構える羽倉ランドセルを訪ねた。案内してくださったのは専務でありデザイナーの三谷忠史さん。1963年の創業当初はキャディバッグ製造が中心で、ランドセルの製造は2018年から始められたそう。ランドセル業界のなかでは新しいブランドといえる。

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多くの日本人が一度は持つランドセル。その歴史は明治時代に遡る。幕末の頃、軍隊用に導入されたオランダの背負式鞄がもとになり、明治の頃に通学鞄として使われ始めたそう。「ランドセルは日本語なんかなって思うんですよ」と三谷さんは言う。実際に「ランドセル」はオランダ語で背負式鞄を表す「ランセル」が語源だといわれている。両手が空いて自由になり、丈夫な素材は転んだ時も頭を守ってくれる。こどもが使う鞄として日本で独特の形に進化してランドセルが生まれた。

「壊れない」こと

「革は劣化しないんですよ」経年で劣化していく合成皮革に比べ、革は手入れさえきちんとすれば100年は持つ素材なのだという。でも重い。こどもが持つランドセルにとって大切な、丈夫さと軽さの両立のために「過剰品質になっているところを探して削って軽くして、強度が必要なところは重くなってもしっかりつくる」と三谷さんが教えてくれた。
「僕の設計思想は8年間持たせること、8年経ったら全体が同時に壊れていくことが理想なんです」強度と軽さの適切なバランスが8年という期間だそう。そんなこだわりの一端を見せていただいた。

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そこはランドセルの口を覆う、かぶせの部分。もっとも触ることが多いここに丈夫な革を使うことによって、へたらず、綺麗な形を保てるのだとか。でも重くなりすぎないように、部分によって革の厚みを変えて縫い合わされている。
そしてかぶせと箱部分を繋ぐ角は、さらに手縫いで補強される。ミシンで一気に縫い上げることもできるが、手縫いすることで強度が格段に増すのだそう。言われなければ気づかない細かな部分だが、ランドセルにとってよく動く大事なところ。
そんな細やかな工程を加えるため、一般的なものの倍近い300以上の工程を経て羽倉のランドセルは形作られていく。こどもたちの6年間を共に歩むランドセルの品質は、そのこだわりによって支えられている。

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新しいテイバン

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完成したランドセルが並ぶショールーム。ほんのりとする革のあたたかな匂いに包まれながら、カラフルなランドセルを眺めると、ふとあることに気が付いた。羽倉ランドセルのかぶせには鋲がない。そのため革の綺麗さをより感じられると同時に、色もよく映えて美しい。
「歴史は浅いけど、いずれ定番になるように、現代的な視点も意識しながらベーシックでずっと使えるランドセルにしたい」と三谷さんは語る。革の美しさにこだわったシンプルなデザインは、新しいのになぜか馴染んでしまう。ずっと飽きずに大切に使おうと思えるランドセルは、こんなカタチなのかもしれない。

自分だけのいろ

すっきりとしたデザインだからこそこだわっているのは豊富なカラー展開。少しグレーを混ぜたような絶妙なカラーリングは、全部で28色あり、部分ごとに色を変えてオーダーメイドで作ることもできる。「お客様が参加して初めて出来上がるランドセルっていいよね」かつては黒と赤しかなかったランドセルの色も、今はキャンバスのように自由に彩ることができる。それは、こどもたちが自分を表現する瞬間。ここから物語が紡がれていく。

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たくさんの荷物を詰め込んで歩いた朝。友達と一緒に走った帰り道。なんてことない日常のそばにあったのは、穏やかな革の匂いをまとったランドセルだった。かけがえの無い大切な6年に、自由な彩りを添えてあげたい、そんな気持ちにさせてくれた旅だった。


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