Seasonal Journey 〜Invitation for scent〜

鳴き砂の海からの便り海の声を届ける結晶

2018.07.04

7月、京都。
祇園祭のお囃子の音が、あちこちから聞こえてくる。
太陽に焦がされたコンクリートから、ジリジリと熱が伝わってくる。
こどもたちが、プールのバッグをぶら下げ、元気に通り過ぎて行く。
そういえば、そろそろ夏休みのころ。
夏休みはきっと、家族揃って海に行ったりするのだろう。
そんなことを考えていると、なんだか海を見たくなってきた。


海の京都

いつもの街中から、車で北へ。2時間ほど走ると、海が見えてくる。夏の訪れを感じたくて、丹後にある琴引浜へやってきた。湿気をふくんだ潮風が磯の香りをたっぷりとはこんで来ると、いよいよ夏という気持ちにさせられる。
琴引浜は「鳴き砂」で有名な砂浜。砂浜で足を滑らせるように歩くと、「キュッ」と可愛らしい音をたてる。「おっちゃんがこしょこしょすると、砂がわらうんやで~」と、観光案内のおじさん。おじさんの手の中で「きゃっきゃっ」とわらいだす砂浜に、思わずこちらまで笑顔になってくる。負けじと、砂をわらわせてみたくなった。

【鳴き砂がわらうようす】PCでご覧ください

こうやって砂が声を聞かせてくれるのは、砂浜がとてもきれいな証拠。少しでも汚れると、砂はたちまち鳴かなくなってしまうんだとか。
豊かな自然と美しい海にめぐまれたこの土地で、夏の香りを探してみたい。


新しいはじまり

やってきたのは、琴引の海から塩を製造販売する西晶株式会社。海からほど近い塩焚き場に伺うと、素敵な笑顔のお二人が出迎えてくれた。ソルト事業部の安井さんと、塩爺こと西村さん。塩爺というあだ名は、5年ほど前にお客様がつけてくれたのだそう。美味しい塩を作ってくれそうな西村さんにぴったりの、素敵なあだ名だと思う。

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左が西村さん、右が安井さん


ここの塩づくりは20年ほど前、地元の旅館「海遊」が始めた。「他の旅館にはないような、海遊ならではのものづくりをすることはできないか」。旅館の皆さんのそんな思いから、塩づくりはスタートした。


鳴き砂の海で塩づくり

塩焚き場に足を踏み入れると、熱気とともに海の香りと薪の燃える匂いがたちこめる。大きな釜の中には琴引の海から汲みあげた海水がふつふつと煮立っていた。釜は対になったものが2つあって、一方は海水の濃縮を、もう一方は塩の生成を行なっているのだと、安井さんが教えてくれた。
「この釜は朝の8時くらいに火を入れて、夕方5時くらいまで燃やしています。1日の海水の処理量は1,000〜1,500リットルくらいですね。1,000リットルから30キログラムほどの塩がとれます」。海水の塩分濃度は約3%。この濃度が25%くらいになるまで煮詰めたら、一旦釜から引き上げる。そのまま焚き続けると、海水中に含まれるカルシウム分が塩より先に石膏となって出てくる。それが塩に混ざらないよう、塩が出てくる直前で一旦塩水を引き上げ二晩ほどタンクの中に入れて石膏を沈殿させる。「きれいに分離させて上澄みを釜に返して、そこから塩にしていくんです。この浮いてきたのが塩なんですよ」。釜の中をのぞいてみると、表面にキラキラと薄い膜が張っている。水晶のように輝くこの膜が、できはじめの塩なのだという。
できあがった塩をふるいにかけて乾燥させ、人の目でひとつひとつ異物を取り除いたら、計量して製品になる。この作業のほとんどを、なんとお二人でおこなっているというから、びっくりしてしまった。

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海の香りをのせた味

できたての「琴引の塩」を味見させていただいた。釜から引き上げたばかりの塩は、まだほかほかと温かく、その温度が鼻先に磯の香りをはこんでくれる。「にがりが少し塩に残るんで、塩に味がつくんです。要は海の旨みでコーティングしているような状態ですね」。
お豆腐を固めるものとしても使うにがりは、塩をすくった残りの液体のこと。にがりも少し味見させてもらうと、なるほど苦い。表面ににがりの成分が残ったままの琴引の塩は、口に含むとしょっぱさの奥でほんのり苦く、その苦みが口の中で旨味に変わって広がっていく。この旨みには、海の香りがぎゅっと凝縮されていて、ひとつまみで丹後の大きな恵みをいっぱいにいただいているようだ。

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丹後の自然とともに

塩づくりの工程は、本当にシンプル。シンプルだからこそ、思うようにいかないこともたくさんある。失敗したら、何を工夫すればいいものができるか、時間をかけて一つ一つ試してみる。根気のいる作業だけれど、塩は自然の中から分けてもらうものだから、しっかりと会話するように海と向き合って、なるべく余計なことはしないようにということを一番に心がけているのだとか。
「だからこうやって、毎日塩がキラキラ浮き上がってきた時は、やっぱり嬉しいんですよね。やっとだっていう感じで」。「よく他の塩と何が違うんだって聞かれるんですけど。そういうときは『海!』って言ってます。とりあえず余計なことをせんと、ただ焚く。塩って結局、海の濃縮されたもんがそこにできてくるものなんで」。

たくさんわらう、お二人の笑顔がとても印象的だった。

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「ここの海は絶景よ。夕日が見られてね。季節ごとに違う魚もとれるしな。小さいころからずっと見とる海やけど、大好きな海やな」。
西村さんの言葉にこたえるように、塩焚き場には海の上を渡ってきた澄んだ空気が流れ込んでくる。
じっと自然と向き合って、たまに、息をふっと抜いたりして。
思い通りにいかないことの方が多いかもしれない。
海を見つめる。
自然の恵みをあたえてもらう。
余計なことはしないほうがいい。
そんなおおらかさも、きっと大切なのだろう。
そういうことを、お二人の笑顔が教えてくれている気がした。




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SPECIAL THANKS

▶︎旅館 海遊 ホームページ 「琴引の塩」紹介ページ









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