Seasonal Journey 〜Invitation for scent〜

夏の終わりを感じる香り懐かしさをたどる旅

2015.08.16

ひぐらし鳴く季節

立秋をすぎ、夏が終わろうとしている。夏から秋への移りかわりは、一年で最も五感が冴える季節ではないだろうか。朝夕の風が少し爽やかになり、見上げる空は高い。夕方にはヒグラシ、夜には秋の虫たちの声も聞こえる。香りは、どうだろう。オシロイバナの匂い、帰省先で感じたお線香の香り、小学校の頃に通ったプ ールの匂い......思い浮かぶのは、どことなく懐かしい香りばかり。儚く消えたあとに残る花火の匂いもそうかもしれない。久しく花火で遊んでいないな、そんな思いから懐かしい香りを探しに旅へ出た。

三河の花火

花火の歴史は火薬が作られはじめたことに始まるという。中国で作られた火薬は、狼煙(のろし)や武器として使われるようになり、日本へは種子島に伝来した鉄砲とともにやってきた。武器としての使用が主であった火薬は、江戸時代には生産できる藩が限られていた。そのために、現在の花火の産地は江戸時代の火薬の生産地に由来することが多い。愛知県岡崎を中心とする三河地方もそのうちのひとつ。花火を初めて見た日本人は徳川家康とのいわれもあるが、家康のお膝元であるこの地方では火薬を扱うことが許され産業としての花火製造も発展したという。だが現在では、家庭で遊ぶような玩具花火は中国産が9割を占め、全国でも20軒ほどしか純国産花火の工場はない。そんな純国産花火を作る工場、太田煙火製造所を訪れた。太田恒司さんは三河地方での花火の歴史はもちろん、花火がもつ本来の意味を教えてくれた。

祭としての火

「花火は夏の風物詩のように思われがちですが、本来は春や秋の大祭で奉納されるものでした。神事には、場を清めるという意味で、夏に限らず花火は使われたんですよ。有名な隅田川の花火大会も疫病のお祓い祈願として隅田川の川開きの時に行われたことがはじまりなんです。フェスティバルとしてのお祭り、ではなく祀るという意味で花火は用いられてきた。そういうことも知っておくことは、とても大切なことだと思います」。

三河地方でも花火を奉納するという意味で今でも行われる手筒花火は代表的だ。「東北の震災の後、日本中が色々なことを慎んだりもしましたが、鎮魂や奉納としての本来の意味を持つ花火大会は日本各地で開催されました。お盆の迎え火や送り火、中国の旧正月の時に見られる爆竹など、火は場所を清めたり、供養の意味を持っているんですね」。思いがけず、花火が日本人の暮らしに根付いてきた所以を知ることとなった。御神輿 がとおる前に花火があがるのは、神々の通る道を清めているのだと知って、その流れが腑に落ちた。

花火は化学

工場は住宅街を離れた一山に。工室と呼ばれる独立した仕事場では、火薬の調合やプレス、導火線を付けるというような作業が各々の建物で行われていた。火気厳禁の現場では夏の暑い季節でも自然光と風の中で仕事が行われる。一見見分けがつかないような直径の違う筒に調合の違う火薬がつめられる。火薬の量によって、花が咲く時間や火が上がる高さが変わり、調合によって火花の色が変わる。「5代続くうちでは、調合のレシピがもちろんあります。でも、時代が変わり原料の取れる産地や質によって、同じようには作れなくなってくる。だから配合帳をもとに試行錯誤して挑戦するんです」。太田さんは大学を卒業後、打ち上げ花火を製造する工場で修行をつんだ。打ち上げ花火と玩具花火は大きく違うが、花火のことはできる限り学べるようにと3年間働いたという。

“花火は化学”と話す太田さんのお話は、じつに面白い。花火の原料は主に「硫黄」「硝酸カリウム」「木炭粉」、そこに「アルミ」「木屑」などを調合して星の火を出したり、〈花を咲かせる〉のだという。この表現も、とても美しい。太田さんが作る花火はきっと楽しい、彼の話しぶりはそう思わせてくれる。工場で作っているのは「ドラゴン」という噴出花火。誰しもが一度は遊んだことがあるであろう、あの花火だ。早く夜にならないかな、そんな想いがふつふつとわいてくる。

懐かしい花火の匂い

「子どもの頃から火を使う文化は、日本独特のものだと思います。海外では、花火をすることに様々な制限がされていることが多いんです。日本では、子どもたちに健やかに育ってほしいという願いも込められているため、花火は昔から使われてきた。子どもたちがね、怖がりながらもドラゴンに火をつけようとしている姿を見るのが好きなんです。あぁ、これでひとつ、大人になっていくんだなって」。そう話す太田さんは本当に嬉しそうで、とても微笑ましかった。太田さんの手は、花を咲かせるアルミのきらめきでいっぱいだ。花火の匂いがどこか懐かしいのは、子どもの頃からの暮らしに、火を使う文化があったからなのだ。小さい時に遊んだ 花火。大人になったいま、夏の終わりを感じて幼少期に思いを馳せ、花火を楽しむのも良いかもしれない。

SPECIAL THANKS

株式会社 太田煙火製造所 ホームページ

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