Seasonal Journey 〜Invitation for scent〜

旬の香りを探す旅春の風が運ぶ、茶の香り

2015.04.15

香りをたよりに、旬をたずねる

初もの、旬もの。それは、四季の変化に富んだ日本の風土で、昔からの風習として私たちが大切にしてきた季節の楽しみ。そして、私たちが待ち望んでいる悦びだろう。せわしない日々には、もしかするとニュースの一コマで、気にもとめぬまま過ぎてしまいそうな“旬”の話。でもきっと、少し周りを見つめてみれば、必ず感じることのできる自然からの報せや気配。もう、暦のうえでは春から夏へ。移ろう季節の香りを見つける旅に出た。

茶源郷

霧が立ち込める向こう側には、空までも続くような茶畑が広がっている。訪れたのは、桜の盛りを終えようとしている4月。山の奥まで続くお茶の木々からは新芽が顔を出す。山峡の町には鳥の声が響き、空気はまだひんやりと冷たい。

京都府和束町はお茶の郷。山の斜面に段々と続く茶畑には、昼夜の寒暖の差で生まれる霧がかかり光をほどよく遮るために、旨味の凝縮された茶葉が育つという。年明けとともに茶の生産は始まっているのだけれど、5月になると町中がにわかに活気づくのだとか。町の人たちみんなが生き生きする。和束の地でお茶づくりを続けて五代、今西製茶の今西哲也さんが茶畑を案内してくれた。

知識や型をこえた茶の楽しみかた

規則正しく植えられた何万本もの木々。1本1本手作業で植え、5年ほどで茶葉を収穫できるまでに成長する。1本の木から30〜50年の間、茶葉を収穫する。家業という言葉のとおり、お茶の苗木を植え茶葉を育て、収穫、加工までを家族総出で行う。25歳のころ、お茶作りを継ぐ決意をしたという。「作り手としては、自分の手で育てたものを飲んでもらって喜んでもらうのがやっぱり一番嬉しいし、次にもつながるんです。はじめから家業を継ごうと思えたわけではないけれど、お茶作りを通しておもしろいことができるんじゃないかなと思うようになって。今では多くの人に日本茶の美味しさ面白さに気づいてもらえたらと思っています」。

和束の茶葉は宇治茶ブランドとして多くが出荷される中、今西さんは自家製品としての茶作りにも取り組んでいる。在来種をはじめ8つの品種を自園で栽培、加工までを行う。一般的な茶葉は「蒸す・揉む・乾燥」という行程のあと「火入れ(香りづけ)」「仕上げ」など、製品としての統一化がなされて流通している。それに対し、茶葉そのものの個性をより楽しみやすいように、「蒸す・揉む・乾燥」の加工のみで製品としているのが今西さんのお茶。栽培方法や品種など、今まで知らなかった茶葉それぞれの“違い”に気づくことができるのだ。また、日本茶を知るきっかけとなれば、そんな思いでまだ国内では少ない紅茶葉づくりにも取り組んでいるという。スタイルにとらわれずに、その違いを楽しみどんな風に飲むのが美味しいのか。飲んでくれる人たちと一緒に考えていきたい、そう話してくれた。

作り手も消費者も少し視点を変えると、まだ知り得なかった出会いがある。彼らの手で育てられた茶葉からは、その一葉に込められた思いを感じる事ができる。

お茶の香りは風土がつくる

じっくりと時間をかけて入れる水出しのお茶をいただいた。そのわずかな雫には計り知れないほどの香りが詰まっていた。広がる芳醇な香りとまろみのある味わい。和束の空気や光、そして霧をたくさんに吸い込んだ茶葉がその全てをひと雫にしたためたようだった。

「私たちはお茶の味を作り出すことはできても、香りを作り出すことはできないんです。お茶の香りは風土が作る。その土地が育むものだと思います」。風土が香るお茶。広く広く続く茶畑を背中にそう語る彼からは、無限の可能性を秘めた茶葉と町への慈しみが感じられた。

それぞれの茶葉がもっとも輝く「時」がきたら、一番茶を収穫する。生茶葉は鮮度を保ったまますぐに工場へ運ばれ、いよいよ蒸され日本茶が誕生するのだ。旬の香りを探した、初夏の旅。そこには旬だけでなく、その土地・風土に育まれた茶の香りと人々との出逢いがあった。これからは一杯のお茶を飲むたび、茶が生き生きと育った土地と人へ、思いを馳せることができそうだ。お茶の楽しみがひとつ増えた気がする。

5月。和束の町が茶葉の香りに包まれる季節は、もうすぐそこまで来ている。

SPECIAL THANKS

▶今西製茶 ホームページ

▶和茶園 ホームページ

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