香りノート

SMOKE TONE 01 はじめの桜

2016.03.01

2016年インセンスコレクション「SMOKE TONE」 香りノートでは、陶芸家 三笘修さんをご紹介します。


陶芸家 三笘修さんとリスン、器と香りの一年がはじまる。三笘さんは大分県日田市で作陶する陶芸家。茶器や花器、碗など暮らしの中で使う器を制作している。彼が生み出す陶土の器を知るために、彼が生まれ育ち、作陶する土地、日田をたずねた。土地の空気を感じ、空を見上げ、土に触れ、生まれくる作品の声に耳をかたむける。


note_mitoma1_3-2.jpg


三笘さんと陶芸との出会いは東京での大学時代。美術の勉強を積む中、才能あふれる人々の存在を感じ自身の進路に迷っていた。そんな時に授業で触れた焼物。「何となくおもしろいなって感じて」。この小さな出会いから、卒業後は陶器制作の現場を経て、京都の師のもとで作陶を始めた。
「その頃は、自己表現を作品にしていました。釉薬も市販のものが多かったですね。でも京都での独立は何かと難しかったし、何より目指していた自己表現に行き詰まってしまったんですね」。そう振り返る三笘さん。悩みを持ちながらも京都から常滑へと住まいを移した。「常滑では暮らしの中で使う器を作っていました。でも段々と自分の暮らしに生活感がなくなり、どんな花があるのかも知らずに花器を作っていて......。そんな日々に楽しみを見つけられなくなっていました」。

"個性を表現する"ことの難しさに思い悩んでいた。そして、作陶と暮らしへの矛盾を感じていた。そんな時、偶然もらった"灰"。植物を燃やして作る灰は釉薬の原料となる。そしてその灰は、思いもよらない色を生み出してくれた。少しずつ、見えてきた自然との共存、日田への帰郷。


note_mitoma1_9.jpg

日田の大山地区は山間の地域。決して広くはない土地だが、梅や栗など多くの農作物で地域の活性化をはかってきた。今から9年前、三笘さんの日田での暮らしが始まった。
「近くの山から取れる石や、梅の木を薪にして作る灰、できる限り地元の原料で焼物を作っています。でもそれにとらわれすぎず、日田に来る前に出会えた色も大切に、素材が持つ美しさを表現できたらと思っています。昔ほしかった個性、今は自然からもらえていますね」。


かつて行き詰まってしまった自己表現。それは、生まれ育った地へ戻り、その土地がもたらしてくれる産物によって取り戻すことができた。
日田の地で生まれる作品。春のはじまりとともに、香りと器の一年の幕開けです。

次号......日田という町



note_mitoma1_11.jpg作品のコト〈3月 はじめの桜〉


香り:咲き始めたばかりの楚々とした姿の桜を表現。
器:
ベースは植物の灰から作られた灰粉引(はいこひき)で植物が育った土地の色を表現。
トレイは、何かのはじまりを予感させる"白"を藁の灰から、そしてケースは錆白(さびじろ)の色で経年変化のイメージを、内包する力強さを種のような形で表現しています。



三笘さんのコトバ

「ケースは木の実や海岸に打ち上げられた漂流物とも感じられます。ベースの上にケースを置いて眺めていると、菜の花畑に浮かぶ舟のようにもわたしは見えます。使う方がいろんなイメージを持って楽しんでいただければうれしいです。」


2016年インセンスコレクション SMOKE TONE

一つ一つ、土が焼けて形ができあがる。いろいろな色は大地から、木々から......

自然のささやきが色となって現れる。ならば、そこに香りを感じることはできないか。

煙とともにできあがる陶土の器、煙となる香り。器の声、香りの音を届けます。

最新の記事

アーカイブ