SMOKE TONE 03 清々しい風
2016.07.01
2016年インセンスコレクション「SMOKE TONE」 香りノートでは、陶芸家 三笘修さんをご紹介します。
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かんな掛けされ、まるで光沢を帯びたような杉板。流水を思わせる木目が美しい。「ヤブクグリ」と呼ばれる杉から切り出された作品が第3回のテーマ。
陶芸家の三笘修さんから、3作目は三笘さんの地元、日田の杉を使ったベーストレイを作りたいとの構想を聞き、大分県は日田の地で製材業を営む佐藤製材さんを訪れた。
丸太や角材がところ狭しと並び、大きな機械から木材が切り出されている。その迫力に圧倒されながらも木肌に目がとまる。案内してくださったのは三笘さんの学生時代の同級生という佐藤栄輔さん。筑後川流域の谷間に成長するという日田の杉。斜面に育つため曲がった根の部分を利用して作られたのが日田下駄だそうで、伝統産業にもなっている。なるほど、と思いながらヤブクグリという杉についてうかがった。
「杉は柔らかく肌触りが良く、保温性があるので住宅に使うと家の中が温かくなります。なかでも、今回作品に使うヤブクグリという品種は木材の色が赤黒く、紫がかっているのが特徴です。かんな掛けしたあとの木目の相が美しいんですよ」。大きな一枚板を見ると幹の中心部分が赤く色づいていることがわかる。無垢材は木がもつ本来の風合いや経年変化を楽しむことができるのも特徴だという。何年もかけて自然乾燥させることで、材自体が強くなり色合いも良く仕上がるそうだ。作品に使う杉は樹齢100年近い立派な木だと聞いた。
左上:佐藤栄輔さん/右下:三笘修さん
「これからは低コストで大量にではなく、少量でもこだわりをもって素材選びをしてくれる個人のお客様にももっと使ってもらいたいと思っています。」と、今後への思いを佐藤さんは語る。大きな一枚板から形作られる小さなトレイ。何とも贅沢な作品となりそうだ。
お昼には「きこりめし」なるお弁当をいただいた。なんと、丸太に見たてたゴボウを、日田杉で作った小さなのこぎりで切りながら食べる。林業再生のひとつの取組みとしてその名も"ヤブクグリ"というグループが開発したというお弁当だ。日田の素材たっぷりのお弁当からは杉の香りがほのかに漂う。町をあげての林業再生への取組みだ。
三笘さんは今回、地元で育ちこだわりを持って加工された日田杉を作品に取り入れることにした。美しい木目を流水に見立て、そこに浮かぶ一枚の笹の葉のような細く繊細な形の器。夏の暑い季節にそっと涼を添えてくれる。陶器と木が織りなす作品の妙。まるで、生き生きとした自然のささやきが聞こえてくる夏の一コマを切り取ったようだ。
次号......釉薬のこと
作品のコト〈7月 清々しい風〉
夏。水や緑に涼を感じる季節。
香り:涼やかな風、清々しい緑の香り。
器:
ベーストレイは日田杉を使い、木目を水の流れに見立てました。
インセンストレイは白磁釉、笹をイメージした形、ケースはカワセミのような鮮やかな色で水辺を表現しました。
三笘さんのコトバ
「今回の作品は川面を流れる笹をイメージして制作しました。子供のころ、流れる笹舟をどこまでも追いかけつづけた思い出があります。日本の夏の風景には水がよく似合います。今回の作品で暑い夏に一瞬の涼をもたらせればと思います。」
2016年インセンスコレクション SMOKE TONE
一つ一つ、土が焼けて形ができあがる。いろいろな色は大地から、木々から......
自然のささやきが色となって現れる。ならば、そこに香りを感じることはできないか。
煙とともにできあがる陶土の器、煙となる香り。器の声、香りの音を届けます。