香りノート

SMOKE TONE 02 ジャスミンティー

2016.05.01

2016年インセンスコレクション「SMOKE TONE」 香りノートでは、陶芸家 三笘修さんをご紹介します。


第2回は、三笘さんが現在工房を構える地、大分県日田市のこと。福岡から在来線で1時間ほど。日田市は大分県の北西部に位置し、筑後川の上流にあたる三隈川(みくまがわ)が流れる水郷の地。江戸時代には幕府直轄の「天領(てんりょう)」として栄え、歴史的な町並みが今も残る。3月のおひな祭り、5月の三隈川の川開き、7月には日田祇園祭と、伝統的な行事も継承されるほか、小鹿田焼(おんたやき)の里としても有名で、町歩きもおもしろい。

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日田駅で三笘さんが出迎えてくださった。駅周辺の日田エリア、そこから南下した天瀬エリア、大山エリア、さらに南西へくだった津江エリア、大きく分けて4つの地域からなる日田市。三笘さんは大山に工房を構える。大山の町について三笘さんに伺った。「この辺りは、山間部なので土地があまり豊かではなかったんですね。でも、昭和36年頃、当時国としては米の生産を推進していた時期なんですが、大山は梅と栗の生産に力を入れだしたんです。"梅栗植えてハワイへ行こう!"なんていうキャッチコピーもあったみたいで。でも、その取組みがあったから、今でも梅の生産が地域を支える産業となっているんですよ」。高台に広がる梅林。訪れた2月初旬は、梅花の蕾がほころびはじめた頃。満開の季節には素晴らしい景観となるのだろう。


梅農家の矢野留美子さんが漬ける梅干しは三笘さんのおすすめ。25年程前から梅農家をはじめ、果実栽培以外に梅の加工もしているという矢野さん。「完熟度合いを確かめるために全て手で収穫しています。育てているのは南高梅や七折小梅(ななおれこうめ)。漬ける時は家の味を守れるようにこだわって漬けていますね。毎年色合いも違うんですよ」。樽の中にはきれいな色に染まった小梅がたくさん漬けられていた。

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広い農作地が少ないため、多品種の作物を生産しているのもこの土地の特徴。香草を育てている河津祐一さんの畑にはクレソンやバジル、パクチーが元気に育っていた。独自の路線で地域を活性化させてきた大山の町、三笘さんがこの地で作陶をしていることにもなんだか納得がいく。「9年程前、住むところを探してこの辺りを車で走ったときに、自然や町の空気が何となくいいなと思って、引っ越すことを決めたんです。はじめは驚きましたが、農家の方がそっと軒先にお野菜をお裾分けしてくれたりして、今では本当にありがたいと思っています」。


知れば知る程奥が深い日田大山。独特な魅力を持つ町と器に魅了されるのも、このシリーズの楽しみの一つではないだろうか。

次号......日田杉のこと



smoketone02-2.jpg作品のコト〈5月 ジャスミンティー〉

季節は初夏。風薫るこの時に感じる、香りと色の世界。


香り:やわらかに香るジャスミンティーの香り。
器:
ベースは瑞々しい新緑を、艶のある灰釉で表現。
トレイは花の優しさを藁白釉で、ケースは濃淡によって茶色から黒色に見える玄釉で夜の深さを表現しています。



三笘さんのコトバ

「明るい日中には気づかなかった路地に咲く木々の花の香りに、夜ふと気づくことがあります。人は視覚からの情報が閉ざされるとその他の感覚が敏感になることがあります。今回の香りのイメージはジャスミン。ジャスミンは夜に白い花を咲かせます。室内の明かりをいつもより少し暗くして、暗い中に浮かび上がる白い花をイメージしたトレイから、立ち上る落ち着いた香りを楽しんでもらえればと思います。 」


2016年インセンスコレクション SMOKE TONE

一つ一つ、土が焼けて形ができあがる。いろいろな色は大地から、木々から......

自然のささやきが色となって現れる。ならば、そこに香りを感じることはできないか。

煙とともにできあがる陶土の器、煙となる香り。器の声、香りの音を届けます。

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