香りノート

SMOKE TONE 05 あたたかな蜜

2016.11.01

2016年インセンスコレクション「SMOKE TONE」 香りノートでは、陶芸家 三笘修さんをご紹介します。
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SMOKE TONEシリーズ最終回の今回は、1年間器の制作を手がけてくださった陶芸家 三笘修さんからの寄稿。
作品への思い、香りへの思いを三笘さんの言葉で綴っていただきました。


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初めてリスンを訪れたときに一番印象深かったことは、スタッフの方々がお客様、一人ひとり丁寧に対応する姿だった。会話の中から相手の好みを感じ取り、数ある香りの中から最適なものを選び、言葉を添えて提供していた。その姿はワインを給仕するソムリエのようだった。


note_st05_2.jpg今年の春から香りのための器を制作してきた。3月のSMOKE TONE 01にはじまり、4種類のインセンスセットを発表した。01では淡い色合いの釉薬で春の風の柔らかさを、02では初夏の日ざしを受けて輪郭線が際立つ新緑の喜びを、03ではベーストレイで使った杉の木目を水の流れに、インセンストレイを川を流れる笹舟に見たて、夏の暑さの中のひとときの涼を、04では黄石釉の色の濃淡で染まりゆく木々、深まりゆく秋を表現した。



そして05でシリーズも最終回となる。これから季節は冬に移る。動植物たちは眠りにつき、雪の降り積もる日には静寂の世界が広がる。05のトレイはインセンスを包み込む形にし、インセンスをたいたときに煙だけが見えるようにデザインした。香りだけを感じ、音もなく煙が立ちのぼる姿に心を重ね合わせられたらと思った。

note_st05_3.jpgこの文章を書いている今、庭の金木犀が花を咲かせ甘い香りを漂わせている。毎年この香りがする頃は、9年前にこの地に引っ越してきたときの気持ちを思い出す。新しい土地での暮らしに期待と不安を感じていたこと。引っ越しの後片づけに追われていた時に、庭からふと甘い香りがして心安らいだこと。香りと記憶の関係は不思議で、香りに触れた一瞬で記憶がよみがえる。香りは記憶のタイムカプセルの様である。過ぎ去る年月の中で感じた喜び、悲しみ、色々な感情をとじ込める様な......。


SMOKE TONE シリーズを通し、香りの奥深さを知り、リスンとともに今年一年、仕事ができたことは私にとってかけがえのない経験だった。そしてSMOKE TONE が一人でも多くの方の元に届くことを心より願っています。


ST05_note.jpg作品のコト〈11月 あたたかな蜜〉

季節は静寂の冬へ。万物を包み込み次なる季節を待つ時間。


香り:あたたかく包み込む蜜の香り。

器:ベーストレイ、インセンスケースともに鉄釉(てつゆう)。何層も厚く濃く塗った鉄釉は、茶色が重なり深い黒色へ。 ところどころに出ている鉄粉の跡が、まるで夜空の星のように見えます。



三笘さんのコトバ

「これから季節は冬に移る。動物たちも眠りにつき、雪の降り積もる日には静寂の世界が広がる。トレイはインセンスを包み込む形にし、焚いた時に煙だけが見えるようにデザインしました。香りだけを感じ、音も無く煙が立ち昇る姿に心を重ね合わせられればと思います。」


2016年インセンスコレクション SMOKE TONE

一つ一つ、土が焼けて形ができあがる。いろいろな色は大地から、木々から......

自然のささやきが色となって現れる。ならば、そこに香りを感じることはできないか。

煙とともにできあがる陶土の器、煙となる香り。器の声、香りの音を届けます。

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