Heapile「記憶の断片からなる世界」
2022.08.18
記憶の断片からなる世界をテーマに香りと写真作品を展開した2022年インセンスシリーズ「Heapile」。香りノートでは、ご一緒した写真家 岩本幸一郎さんとともにシリーズを掘りさげてご紹介します。
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1992年、福岡県に生まれた岩本さんは、2019年に個人としては初めての写真展「isolation」を開催。「自分の作品はまだ世の中に出回っているものではなく、写真展に足を運んで皆さんの目で直接見てほしい」と話す岩本さん。そこには自身が追求するオリジナルな表現と、それを具現化させる技術への自信が見えた。
10代の頃は山にかこまれて暮らしていたという岩本さん。その頃の経験と記憶は、作品制作にも影響を及ぼしているという。今回Heapileシリーズのイメージヴィジュアルになっている作品も、大自然にかこまれて撮影。
まずは山の中を歩きまわってみる。どこからか湧き出てくる水に触れてその冷たさを感じ、自然の音を聞き、身体で感じたものを自分の中で噛み砕いてから、フィルムカメラを手に取った。
Heapileシリーズは、岩本さんがこれまでに作品のテーマとして追ってきた「記憶」をキーにし、さらに香りを重ねることで新たな展開をみせている。私たちが普段何気なくみている夢。それは今までに見たり、経験したり、感じたりした記憶が組み合わさり重なって作り上げられた空想の世界だ。その曖昧であり、同時に鮮明でもある世界を香りと写真で表現した時、一体どんな形になるのだろう。私たちは新しい試みを始めた。
一つ目の香りは[340 LAYER F]。霧がかったといった意味をもつ "Foggy" の頭文字をもつこの香りは、目覚めたときにはもう認識できないような曖昧で朧げな夢の記憶を表現した。作品も同じく曖昧で不鮮明、明確なモチーフはない。何かの芽生えや始まりをイメージし、感じる光や音などぼんやりとしていて可視化できないものを可視化するべく、落とし込んだという。
二つ目の香り[341 LAYER L]。叙情的なという意味をもつ "Lyrical" の頭文字をもち、目が覚めてからも鮮明に記憶に残っているようなはっきりとした夢の世界を表現している。作品には印象的な情景が広がる。感じたドキドキや懐かしさ……。誰かに話したくなるような夢を見た経験は誰しもあるのではないだろうか。
そして最後の香り[342 LAYER N]。正午の月を表す "Noon moon" の頭文字をもつ。様々な記憶が重なり合いストーリーとして現れる空想の世界を、LAYER FとLAYER Lを重ね合わせることで表現した。軽やかな香りと力強い香り。相反するような二つの香りが重なり合うと、様々な記憶が一瞬のうちに駆け巡るような不思議な感覚を覚える。作品でもその重なりは表現されていて、記憶の断片であった二つが組み合わさることで、まるで夢の世界にいるような幻想的で美しい風景となった。「このシリーズの作品を作り始める時、最初にLAYER Nの構成を考えたんです。そこから二つに切り分けた時にそれぞれの作品がきちんと成り立つようにするのが難しかったですね。」と岩本さんは話す。
見ている間はあんなにも鮮明なのに、目覚めると霞がかかってゆくように消えてしまう夢。そう、まるで煙や香りのようだ。鮮明に残ることはなく儚いからこそ、私たちを惹きつける何かがあるのだろう。そして香りや写真から感じるものは人それぞれ違う。きっと、自分だけがもつ記憶をそこに重ね合わせることで、新しい化学反応が起きているのだと思う。香りと作品によって想起される記憶、空想から生まれる新しいストーリー。Heapileシリーズをぜひ楽しんでほしい。
岩本さんの言葉
「香りはいつも、あの頃の情景を想起させてくれます。ご自身の記憶を想い返し、感情の機微との再会を楽しんでいただけると嬉しいです。」
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展覧会開催
「Heapile」の世界をより深く感じていただける展覧会の開催が決定。
空間全体で香りと写真を楽しむひと時。すでに香りを楽しまれた方も、ぜひお越しください。
■京都会場
期間:2022年8月19日(金)〜 8月29日(月)
10:00 〜 17:00
会場:香老舗 松栄堂 薫習館 松吟ロビー
住所:京都府京都市中京区烏丸通二条上ル東側
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Artist Profile
岩本 幸一郎
1992 年、福岡県生まれの写真家。
2015年から平間写真館TOKYOにてインターン経験の後、 文化出版局写真部を経て 2018 年に独立。
2020年よりKiKi inc.所属
HP▶http://kikiinc.co.jp/index.php/works/koichiroiwamoto/
Instagram▶@iwamoto_koichiro