Seasonal Journey 〜Invitation for scent〜

花々に秘められた美しい香りこよなく愛されるバラをたどって

2015.05.15

風薫る季節に

薫風。初夏に、緑の間を吹きぬける風。目に見えない香りを風に感じてきた日本人の豊かさを表するような言葉だ。立夏を過ぎ、季節は夏を迎えている。緑は青さを増し、光を浴びてますます輝く5月。このとき盛りを迎えるのがバラの花たち。風にのって届く香りに誘われ、花々の美しさを愛でる初夏の旅へ。

香りの「異」を感じとる

そこは、何百輪もの花々が咲く“秘密の花園”。あちら側が見えないほどにさまざまな種類のバラが咲き誇る園へ、迷い込むように進む。バラに抱かれることの幸福に満たされながら、色とりどりの美しい姿に言葉もなくして見惚れてしまう。 たくさんの品種があるバラは、香りでは7つに分類されるという。 花園を案内してくださった奥田容彦さんのことばに耳をかたむける。古典的で華やかな香り「ダマスク・クラシック」。 クラシックをより洗練させたような印象の「ダマスク・モダン」は、バラの香り、と聞いて思い出されるその香りだろう。大輪の美しい薔薇を想起させる高貴な香りだ。レモンやピーチの香りがほんのり感じられる軽やかなものは「フルーティ」。すっきりとした柑橘の香りを感じさせることに小さな驚きがある。クローブの香りが印象的な「スパイシー」は、華やかさだけでなく、スパイスの風味を感じさせる。現代バラに多くある「ティー」の香りは、優雅で上品、そして強すぎず可憐な印象だ。花の色が紫色を帯びた種類の「ブルー」の香りは、花色と同じで少しクールな印象。「ミルラ(アニス)」は独特なまったりとした香りが特徴で、古典的なローズの香りとは趣が異なる。

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これら7つの、異なる香りが少しずつ重なりあうハーモニー。クラシックの中にフルーティさを感じたり、フルーティでありながらスパイシーな一面があったりと、香りの世界は無限に広がっていくようだ。多彩なバラの、それぞれが持つ香りの違いへの発見や驚きが、本当におもしろい。朝、虫たちが活動する時間に最も芳醇な香りを放ち受粉を促すという。ローズの香りをモチーフにした香水やインセンスが生み出される理由が、わかるような気がする。自然の営みの中で放たれる植物の芳香に、人は自ずと魅せられてしまうのだろう。

自然のままの曲線美

バラを育てて30年以上という奥田さん。彼の育てるバラは自然のまま、思うままに伸び、生き生きと空に向かって花を咲かせている。「16歳からバラ農家として働き始めて、高校、大学を出た後に、アメリカへ勉強をしに向かいました。広大な土地ではまっすぐに揃ったバラを育てていて、そこで使っていた農薬が良くなかった。自分の何倍もあるような大きな人たちの中で、たくさんの農薬を散布していたので、それで自分自身が倒れてしまって。それからは、農薬を使わないバラ作り、にこだわって今までやってきました」。
450〜500坪ほどの農園には70品種ものバラ。そのどれもが農薬を使わない自然な姿のバラなのだ。バラは自然に育つとツルが縦横に伸び、思いの儘に花をつける。つまり、曲がっているのだ。“曲がったバラ”は育ったままの自然の姿。婚礼のアレンジメントに使われたり、世界的に有名な華道家も好むという。「アレンジのデザインを考えている時が一番楽しいですね。曲がっているバラをどう生かして表現するか、まるで庭に咲いているような自然な姿のアレンジメントができるのがいいところですね」。私たちが迷い込んだこのバラの園では、曲がった花々が私たちに話しかけているようにも見えたのだった。



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植物の持つ可能性を楽しんで

バラ園で摘んだダマスク・クラシックの花びらをたっぷりと使ったローズティー。豊かな香りを感じながらポットへ花びらを摘み入れ、温かいお湯を注ぐ。すると不思議なことに、真っ赤な花びらからは淡い青色がにじみ出た。「これが不思議なんですよね。どうしてこの色を出すのか?まだまだ分からないことがたくさんあるので、それを紐解くのがおもしろいんです。だからバラを育て続けているのかもしれません」。そう話す奥田さんはとても楽しそう。

レモン果汁を加えると鮮やかなピンク色に姿を変えた。香り立つバラの匂い。口に含むとほのかに甘くおいしい。「これは農薬を使っていないからできることなんですよね。この特徴を生かして、バラをもっと楽しむことを提案していけたらと思います」。

風に乗って運ばれてきた香りは、花が持つ本来の力。とりどりに開く花の色は、植物そのものの美しさ。香りに誘われ訪れた初夏の花園では、丹精込めて育てられたバラたちと出会うことができた。この季節が訪れるたび私たちは、バラという花の姿、そして香りに、これからもずっと魅了されていくのだろう。

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