Seasonal Journey 〜Invitation for scent〜

香りの色をはぐくむ町プラムピンクの香り

2016.02.15

春のはじまり

冬の終わりを香りで知るときがある。ふわりと甘く、どことなく酸味もある。ふと気づくとそこにある香り。梅の花が咲いたのだ。寒く厳しい冬をおえた喜びは、昔も今も変わらないだろう。白い一輪の花が春のはじまりをつげる。香りに誘われ早春を探しに旅に出る。

みなべ、梅の町

きらきらと光る海をながめながら電車に揺られ、降りたったのは和歌山県みなべ町。あたりに植えられた梅の木々には可憐な花が咲き、ふくよかな香りを漂わせている。春は花、初夏には若葉や果実、そして梅干し、一年を通して梅のさまざまな香りを楽しめる町でもあるという。「このあたりは、梅の他に備長炭も有名でね。」そうおっしゃりながら工房へ案内してくださったのは、みなべ川梅染(うめぞめ)愛好会の永井俊子さん。工房にはほんのり南高梅の梅干の匂い。「梅染めを始めてから今年で20年、愛好会となってからは18年。変わらず5名のメンバーで活動しています。」メンバーのみなさんは南高梅を育てたり加工したりする梅農家さん。地域の活性化のための村づくり塾の第一期メンバーとして偶然集まった5人。メンバーのお一人、二葉さんが当時のことを振り返る。「村づくり塾での活動はいったん終えたのですが、せっかく同じ方向を向いて地域のために活動したので、何か続けられないかなと思って。それで、永井さんが梅染めはどうだろうって声をかけてくれたことがはじまりでした」。食の面で注目されがちな梅を食以外で町の特産品にできないかと考え、はじめたのが梅染めだったという。

農家として染めをすること

梅染めは、古木を切りその木の皮を削り煮出して染液を作るという。梅の木への想いを二葉さんが教えてくれた。「梅の木はね、栽培していて30〜40年で新しい木に入れ替えるんですね。その時に、この木を使えないかと思って。何十年も生活のために果実を実らせてくれた木だから、色で木をよみがえらせてあげられたらと思ったんです」。草木染めの展覧会で梅染めを知ったという永井さん。「木の個性や使う部分によっても色が違います。木質部は茶、皮はピンク、根は土の成分をよく吸っているから色がきれい。毎回発見があってそれが楽しいですね」。木の皮を削っていると、いい色素が潜んでいるのがわかる、と楽しそうに話してくださった。

journye2016.2.3-3jpg.jpg



「私たちは染織家ではなくて農家なので、この色に染めたいというのではなく、その木が持っている色を大切にする。この木はこんな色を持っていたんだな、と楽しみながら染めています。」と二葉さん。染めが始まると工房は活気に溢れた。染める布の重さに対して、染料は何リットルと細かく計りながら工程が進み、少しずつ染まりはじめた布に目を奪われる。時間をかけ染め上がった色が楽しみだ。

人生のきっかけ

はじめは趣味でしていた染物。それが愛好会となり、染色家に習ったり、梅染め体験を始めたりと徐々に活動の幅を広げた。梅染め体験では1000人をこえる人々と出会ったという。「梅染めを始めたことでそれまでとは全然違う人生を歩んでこれたなと思うんです。農業だけではその道のことしかわからなかったけど、染を始めたからこその出会いもたくさんあったし、文化としての広がりも感じられた。それが今度は農業にも活かせたりして……。本当にトシちゃん(永井さんをみなさんトシちゃんと呼ぶ)が声をかけてくれてよかった」。二葉さんの話す姿を見て、梅染めとの出会いはもちろん、彼女たち5人の出会いそのものが人生をかえる素晴らしいきっかけであったのだと感じられた。

色をはぐくむ

青空のもと染め上がった一枚のストールが風にたなびく。なんともいえない優しい色合いで、まるで梅の香りが姿をあらわしたような風合いだ。あぁこれが彼女たちを長い間魅了してはなさない「色」なんだとわかる。美しく染まった一枚を前に二葉さんがおっしゃった言葉はとても印象的だった。「媒染する木酢酸鉄も地元の備長炭から作っているんです。だからこうやってできあがった梅染めは、みなべの色そのものです」。

journey2016.2.5.jpg



みなべの色はふわりと風に乗り、まるで春のはじまりを告げる「香り」のように美しい。この地で育てた梅の木から町の色をはぐくむ女性たち。春が来た、この町では梅の「色」が冬の終わりを告げていた。



SPECIAL THANKS

梅染愛好会のみなさん

みっちゃんの梅 Facebookページ

奥みなべ梅林 Facebookページ

最新の記事

アーカイブ